投稿SS TSミオ1話(スカウターで電脳戦士に変身するTS男子)
クーレンミオさんに投稿して頂きました!ベースのキャラデザインはきりりんさん♪

〜市街地 バス乗り場〜
薄明るい昼下がりーー
高校からの帰り道、市外のとあるバス停に、1人の少年がやってきた。
少年”空崎澪音(そらさき みお)”は将来に向けた進路面談で何も希望を出せなかったことがショックで、何度も思い返して座り込んだ。
「”この学校に通う上で、その先の将来的な目標、目指しているものはありますか?”」
それ自体は、悪意の無い質問だったが、ずっと”知識を学ぶ”事が一種の目標だったので、改めて”その知識をどうして得たい”のかと。そう問いかけられて、何も言えずにいた。
「はぁぁぁ…….」
昔から親からも何事にも真面目に取り組むように言われ、現在をいっぱいいっぱいに過ごしてきた。
…….だが、その先は?まだ何も無い。何をしたいのか、何がやりたいのか。それが分からず、ただ現在をまるでロボットのように淡々と過ごすことに、不安を覚えていた。
クラスメイトには、夢や目標がもうある子が居た。曖昧でも目指すものがあった。澪音には、まだ無いのに。
「皆ある程度目標があるのに、空崎さんには無いの?あんなに真面目なのに…….」
他の教師ですら”既にあるもの”だと思っていた。だから彼は焦っていた。もうある人は”ある”目標という物に。
「僕は…….どうすればいいんだろう…….目標って…….なんだろう?」
不安げに空を見上げる。
このまま自分は将来的に何も無い人間で、ロボットの様に扱われてひっそりと消えてなくなるのか?
そんな不安がどんどん湧き上がってくる。
「はぁ…….」
頑張らなきゃいけない、やらなきゃ行けない。でも、どうして頑張らなきゃいけないのか?
考えれば考える程、悩みは深くなっていき、再びため息の後、空をそっと見上げた。
今の澪音の気持ちのように曇ったようなその空が段々嫌になって、いつものようにスマホを開いて、気分転換に音楽でも聞いてみようとしたその瞬間ーー
「うっ!?」
澪音の耳の中に、イヤホンを通じて鈍いビープ音の様な不快な音が流れる。思わず頭がクラッとして倒れかけた。
「うっ…….ぅぅ…….あっ!?」
音の原因であるスマホに目をやると、ノイズや砂嵐が走っていて、上手く機能していなかった。澪音は故障したそのスマホを見て、嘲笑われているようで段々苛立ちすら覚え始める。
「あぁ…….もうッ」
何もかも上手くいかない。そんなネガティブな思考がより彼の中で深まる。
思い返されるのはそもそもこんな気持ちになった原因、沈んだ顔をした時教師に咄嗟に誤魔化されるような一言ーー
「”まだ時間があるから…….それまでに考えられたらいいんだ、だから今は真面目に過ごしなさい”」
「”だって空崎は優等生なんだから…….”」
なら、卒業までに見つけられなかったら?学ぶことが悪いことでは無いし、頑張るつもりではあったが、どうしてそうするのか。そういう目標を過剰に重く考えてしまって、楽しみ、学ぶべき今を、タイムリミットのように感じてしまった。
この先学びたい、良くなりたいだけでは将来ダメなのかもしれないと。
それからどんどんとマイナスな方向性に不安な気持ちが込み上げてくるのが嫌になっていた。
いっその事、この世界が消えてしまえばと思う程にーー
そう思った瞬間、突然周りから音が消える。
「…….え?」
そして顔を上げれば、周りの景色は、まるでさっきの自分のスマホのように、砂嵐やグリッチのような物が走っていた。
「一体…….何が!?」
ビルも、空も、道路も、自分のすぐ側の地面も歪んで削り取られたような異様な景色に一瞬で変わり、澪音は恐ろしくなり、逃げようとするが、上手く立ち上がれずに椅子から転んで、足も恐怖で動かなくなった。
「痛っ!?あ…….あぁ…….どうなってるんだ…….」
「キキキ…….キーシャッシャッシャッ!キーシャッシャッシャッ!!」
またもや突然、背後の砂嵐の様に歪んだ地面から、怪物が這い出してきた。
「な…….なにあれ…….!?化け物…….!?」
その姿はまるで蜘蛛のようだったが、蜘蛛が逆さまに人間に張り付いた様な異形の見た目で、顔であるべきところに口しかなく、瞳やもう1つ口が尾に着いているという、生物学的にもありえない見た目の怪物だった。
「夢じゃ…….夢じゃないの…….!?」
澪音は自分の頬をつねってみるが、痛みを感じる。これは間違いなく現実の出来事だった。
「キーシャッシャッシャッ!世界よ!歪んでバグに浸食されろ!そして俺達"ヴァーグ"の世界を!」
「ヴァー…….グ?」
謎の怪物は自らをヴァーグと名乗り、狂気的な高笑いを上げ始める。
そしてこの怪物こそがこの事象の原因である事を語っていた。
「あ…….ああ…….」
澪音は目の前の状況から、最悪の状況から、逃げ出したかったが、足が上手く動かず、立ち上がれなかった。
そしてジトッと怪物は六つの瞳で澪音を見つけ、睨みつける。
「キッシッシッ…….!」
全身に悪寒が走り、尚のこと蛇に睨まれたかのように動けなくなった。そして、そのまま怪物によって彼も歪んだ地面に引きずり込まれる。
「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁ…….!?」
その下はまるで電子世界の中のようで、どこまでも続くような青い色のトンネルのようだった。
だが、上以上に酷くバグが浸食しており、数字や文字が見えないほどに化けていた。
「え…….えぇ!?何だ…….この世界…….!?」
とても信じられないような光景に、ただただ混乱が広がっていた。
「キシャシャシャッ!!もうすぐここも現実も俺のものダァ!!」
「みーんな消して書き換えてやる!オマエモナ!」
怪物が澪音を指さす。そして自分の姿をもう一度見直すと、自分の足も光の砂のようになって消えていっていた。
「う…….うわぁぁぁぁぁぁぁ…….!?足がっ…….足が消えるっ…….!?」
痛みは無いが、段々と感覚が無くなってきていた。自分が消えていく、澪音は否応にもその事実を強制的に自覚させられていた。
「このまま侵食されて全て消えるがイイ!キーシャッシャッシャッ!!!!」
「あぁ…….僕は…….このまま分解されて死ぬの…….?」
笑う怪物、段々砂のように消えていく体ーー
徐々に力も無くなって、水の中に溶けるように消えてなくなるのかーー
そんな彼の恐怖すら徐々に薄れていく。
「(あぁ…….僕は…….どこまでもつまらない人間だったな…….)」
ふつふつと湧き上がるのは、後悔の念ばかり。
「(僕は…….親に何も返せず…….何も頑張れず…….何も終わらせられない…….)」
「(頑張ってるフリをして…….未来や…….自分の事…….嫌な事を考えず生きてきた…….僕は…….怠惰で何も出来ない…….ダメな人間だ。いっそ、このままーー)」
「”それでいいの?”」
突然、澪音の頭の中に声が響き渡る。知らない女の子の声だ。
「誰…….?」
「”このまま消えてなくなっていいの?”」
「”ただ良い子なだけの空っぽじゃない、変わりたいんでしょ?”」
彼女の言葉は澪音の心の内に触れ、優しく促すような響きを持っていた。
「でも…….僕は…….変わるなんて…….」
「”出来るよ、諦めず手を伸ばして”」
「”自分で変わりたいのならーー”」
澪音はその言葉で、自分の本当の想いを思い出す。
「そうだ…….僕は…….僕は…….!」
終わっていいのはここじゃない。一生に一度の機会でも、自分が代われるのは未来じゃない、まだ何も始まってすらいない。
常に”今”なんだとーー
「僕はただ目的無く動くロボットじゃない…….!知識だけのつまらない人間じゃない!何事にも目を向けない…….無愛想で真面目で空っぽな自分では終わりたくないっ!」
「僕は…….変わるッ…….!!変わりたいんだっ!」
澪音の体が突然光り輝き、消えかけた体が戻ってくる。
「ナンダァ!?グッ!?」
怪物もその光に気が付き、その眩しさに目を覆って後ずさりした。
「一体…….どうなって…….?」
「”頑張って、勇気を出せたね、すごく偉いよ。”」
澪音の目の前にうっすらと光り輝く女の子ーーいや、長髪のお姉さんが現れる。
「貴女は…….」
光輝く女性はそっと澪音の頭を撫でる。その手には優しい温もりが籠っていた。
「”さぁ、行こう、”変わろう”?」
次第に女性の姿はスカウターのような小型ユニットに変化していく。
「わぁっ!?え…….っ!?これは…….っ…….?」
「”これ付けて、変わって、”新しい自分”にーー”」
その声の導きと共に、脳内に新しい自分への、覚醒のキーワードが流れ込むーー
「ト…..トランスログインッ…….サイバーアップッッ!!」
掛け声と共に装着すると、再び澪音に光が集まり、書き換えられていくーー
「あっ…….わぁっ…….!?」
全身に痺れるような感覚が流れ込み、筋肉が震え上がる。
「うああああああ…….!?」
「何が…….起こって…….っ!?」
ただ体に走る感覚だけではなく、澪音の “体そのもの”が変わっていた。
「んっ…….!?あっ…….あああ…….!!」
胸元が膨らみ、豊満なバストが形成されてゆくと同時に、体型も徐々に丸みを帯びた女性的なものへと変化してゆく。
「んんっ…….」
髪がサラサラと伸び、美しいロングヘアの髪型に整えられる。
「体…….がっ…….!?変わっ…….てくっ…….」
段々刺激に耐える自分の声すら高く変化していく。
「んんっ…….あぁっ!!」
次の瞬間、股間にビリビリっとした衝撃が走り、澪音は思わず股を両手で抑える。
「あっ…….なくなって…….いく…….」
股の間にあったものがみるみる縮んでゆき、消滅する。
「なに…….これっ…….んんんっ…….!///」
それと同時に、腹部がキュンキュンと、これまでに感じたことのない感覚とともに内部が変化していくように感じられた。
「僕…….僕は…….っ」
「私はーーー」
爆発したように光が飛び散り、澪音は金縛りが解けたように、束縛から完全に解放される。
…….しかし、開放された事で勢いよく膝を着いた瞬間、自分の格好の変化にすぐに気がついた。
「…….え?」
自分には無いはずの重みーー 見下ろすと黒いインナーに包まれた豊満な胸、太ももには長いソックス、それにアーマーが付いており、高い露出度も相まってその姿はまるで”SFに出てくるサイバー女戦士”そのものだ。
「えっ!?ちょっ!?な、なにこれ!?私…….私っ!?」

いつの間にか女体になって、声も高くなって、髪も伸びた感覚。電脳空間の流れていく情報の波が、チラリと今の澪音を反射したが、やはりどう考えても女戦士である事は変わりなかった。
それに、どこか今さっき現れた女性の面影が自分の今の姿に重なっていた。
今の澪音こそ、電子の世界で戦い、現実を守るサイバー女戦士”トランサーミオ” であった。
そして休む間もなく、右目に重なるようなスカウターに相手の情報が流れる。戦えと促すかのように。
「これは…….?スパイダーヴァーグ、浸食度Lv5?得意な攻撃はヴァグネット…….!?もしかしてあいつの…….?」
「ナンダカ知らないが…….邪魔をするなら貴様から消してヤルっっ!!」
ヴァーグは敵意を剥き出しにして一直線に澪音に向かって来る。
「うわっ!?武器っ!?武器はっ!?」
咄嗟に慌てて武器を探そうと、体をまさぐり、スカウターに触れた瞬間ーー
腰のホルスターにエネルギー銃が生成された。
澪音は急いで抜き取り、そのまま一発ヴァーグに向けて撃ち放つ!
「グワァァッ!?」
「おっ…….!?す…….すごい!」
その銃は反動も少なく、ヴァーグに対して絶大な威力を持っていた。
「これなら…….怖いけど…….やれる!」
澪音は、今や自分に無限の勇気が流れているような感覚だった。距離を取りつつ、テレビでチラリと見たようなヒーローのように、銃を撃ちながら戦う!
「はぁっ!って、うわっ!?」
もちろん運動神経も高くなっていたが、未だ元の体とのギャップが大きく、滑って電脳空間のトンネルの壁に当たった。
「痛っ…….!?…….いや、もしかして?」
だか、その勢いやこの空間の重力といった物理法則も曖昧な事を利用し、より自在に動けるのではないか?と気が付き、今度は壁を使って更に大きくジャンプ!
「なにィっ!?」
追いつけないヴァーグに再び連射!火花と共に相手は激しく吹き飛び、転がりながら倒れる。
「馬鹿な!?コノ俺が…….こんな小娘に…….!」
「娘!?いやっ!私はあくまで男だけどっ!?」
澪音は思わず顔を赤くして突っ込みを入れる。今完全に女性の姿だがあくまで彼の自認はまだ男性である。
「ほざけぇっ!!」
ヴァーグは口から糸を吐き出し、澪音の腕に巻き付ける。
「うっ、しまった!?うううう…….!痛いっ!」
「さぁ!こっちへコイ!痛めつけてやるゼ!」
ヴァーグは糸を巻き取りどんどん澪音を引き寄せる。
「うううう…….お前なんかに…….負けてたまるかっ!このッ!」
澪音は逆に糸を引っ張って再び体勢を崩させ、その隙にエネルギー銃で糸を焼き切った!
「シマッタ!?」
「このッ!」
反撃でそのまま蹴りを入れると、勢いと速度を付けてヴァーグはまた吹き飛ばされるーー
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!?」
ヴァーグは急いで手足から糸を伸ばし、ギリギリ電子世界のトンネル内に蜘蛛の巣のようなものをを張り巡らせて、ショックを和らげ踏みとどまる。
その時、澪音のスカウターが再び光り始める。
自分に触れろと言わんばかりに。
「これは…….グリッチコアスキャン…….?」
表示に従うようにスカウターに触れると、ヴァーグの体の一部分がバイザー越しに光っているのが確認出来る。
「もしかして…….あれが弱点…….!?」
“グリッチコア”という表示名から、澪音はそれが弱点であり、ヴァーグという存在が現実を侵食する”力の源”なのだと考察できた。
澪音はそう確信すると、エネルギー銃を握りしめ、息を整え集中して弱点を狙う。
澪音の覚悟に呼応するかのようにエネルギー銃は虹色に光り輝き、出力はどんどん増大していくーー
「行っけええええっ!!」
渾身の一発が放たれ、エネルギーの塊がヴァーグに一直線に向かっていく。
「グワァァァァァァァァ!?」
ヴァーグは光に包まれ大爆発し、沈黙。途端、周囲の歪んだ空間も正常に戻り始める。
「はぁ…….はぁ…….」
「…….いや、疲れてる場合じゃない、ここから出なきゃ!」
一息つく間もなく、澪音は出口を必死に探し始める。アレを倒せたとしても出る方法が分からなければ意味が無いーー
澪音は飛び上がり、スカウターで再び周囲をサーチする。そしてロックは一箇所へ向けられる。
「あれだ…….!」
澪音は迷う事なくそこへ飛び込んでいくーー!
…….そして、車の走る音、騒がしい人の声、近くに巣があるのか、小さく聞こえてくる小鳥のさえずり、安心感のある日常の音が戻ってきて、どこにも異常は無い。
澪音は恐る恐るスマホの反射で自らを見るが自分の姿も元に戻っており、まるでさっきまでの事が夢のようだった。
「…….は…….はは…….」
思わず苦笑とも言える様な掠れた笑いが込み上げ、どっと疲れたように椅子に持たれる。
だが痛みも、疲労も、しっかり残っており、体の熱い感覚と、恐怖を飲み込むような溢れる力と自信も、魂に刻まれていた。
「夢じゃ…….無いんだ…….」
「…….いや、夢でもそうじゃなくてもいい」
「なんだか…….さっきは自分は何にでもなれる、どんな存在にも打ち勝てる、強い自分に…….なれる気がしたな」
そっと自分の手を見つめ、僅かな余韻と、静かな確信がそこに残っているのを確かめる。
「…….きっと変われる、変われるんだよって…….教えてもらった気がした、なんてね。」
そうして、ようやく待ちわびたバスがやってきて、そこに乗り込む。
ようやく、家に帰れるのだと。
座席に座って、そっと目を閉じてしばし休息する澪音。だが、そのポケットに、先程のスカウターが入っているのに気がつくのは、帰ってからの事だった。


























































ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません