「製作所へようこそ」 作.ありす

2024年5月14日小説

ありすさんの投稿作品でstemさんに追加挿絵を描いて頂いてます。初出は20080724あたり。

 建材の匂いがかすかに残る真新しい部屋。僕は新生活に備え、住み慣れた家を出て一人暮らしをはじめた。
 これからはエッチな本や画像もいつでも見放題。
 荷解きもそこそこに早速ノートPCを回線につないで、その手のサイトを巡回し始めた。
 引きこもりがちで友達のいない僕は、ネットだけが唯一の友達だった。
 そんな僕が、アダルト系のサイトで孤独な自分を慰めるようになるのは、ごく自然な流れだろう。そう思うことにしていた。
 いくつかのサイトを巡り、無修正画像をダウンロードして、そろそろ止めようかと思った頃、妙に印象に残るサイトを見つけた。

【おかし製作所】

 一見ただのスイーツ関係のサイトかと思ったが、デザインが淫靡な雰囲気を漂わせている上に、“21歳未満閲覧禁止”となっていた。
 期待をこめてクリックし、年齢認証をパスして捨てアドでユーザー登録をすると、入り口が現れた。
 入り口は“調教コース”と“開発コース”のふたつ。
 それっぽいことをされている女の子のサムネイルが入り口に飾られている。SM系のサイトかな?
 虐められっこだった僕は、ようやくその環境から逃れ、違う町での生活を始めたばかりだった。
 自分が女の子だったら、そういう性的な嫌がらせもされていたのかもしれないな……。
 そんなことを思いながら、なんとなく調教コースをクリックした。ところが、

     こちらのコースはあなたの人生に大きく変化をもたらします。
     初めての方は開発コースを選択してください。

と言う表示が出て、そこから先へ進むことが出来なかった。仕方なく開発コースを選ぶと、黒い目線を付けられた女の子たちの裸画像のサムネイルが並んでいた。その一つをクリックすると、その子のあられもない姿のいくつもの画像にたどり着いた。目隠しをされたり、拘束されたりしていた。僕は興奮を抑えきれず、次々に女の子たちの画像収集を始めた。
 女の子たちにはニックネームが付けられていた。“いちごショート”とか“マロンタルト”とかの、お菓子の名前だった。おそらくサイトの名前にちなんでのことだろう。単純に“ミルク”とか“チョコレート”とか言うのは奴隷暦が長いのだろうか? かなりハードなプレイをされていた。

いくつかの画像を眺めているうちに、ふとページの一番下に表示されていたバナーに気が付いた。

     あなたもこんな風にされてみたいと思いませんか?

 なんとなくクリックしてみると、そこは通信販売のコーナーだった。この手のサイトには極めてありがちだ。でも、このサイト女性向けだったのかな? 確か入り口には18禁であることの表示と、内容説明の欄にはっきり“男性向けサイト”と、書いてあったような気がしたけど?
 しかし商品一覧をみて、僕はちょっと戸惑った。“女性の快感は男性の10倍!”のキャッチフレーズとともに商品が一つだけ。他にもっとあっても良さそうなものなのに、選べるのはその一点だけだった。
 説明には“あなたにも女性の快感をもたらす、不思議な口紅”とあった。値段は10ビットキャッシュ。安っ! 運送会社のメール便程度の値段だ。
 送料が出るかというぐらいの値段にうそ臭さを感じながらも、購入してみることにした。

 翌日、小さな包みが届いた。どうせジョークグッズかなんかの類だろうと思って開けてみると、中には使い捨てのプラスチックのトレーに赤い粉の入った袋。それになにやら液体の入った小袋が入っていた。
 説明書きによると、付属の油で赤い粉を溶いて唇に塗れとある。媚薬の一種だろうか?
 粉の入っていた小さなトレーに付属の油をたらして練り、唇に塗ってみた。すると、そこを中心に顔が熱くなってきた。これはまずいことをしてしまった、と思うまもなくそれが全身にいきわたり、体の感覚が失われていった。
 一瞬気が遠くなったような気がしたが、すぐに我に返ると、体に違和感を感じた。手を見ると華奢な白い腕、それに細くなった足。何より着ている服がぶかぶかだった。おまけに、胸が少し張っているような……。

「う、うそだろ? こ、こんな事って……」

 僕は胸と股間を同時に触って確かめた。
 紛れも無く女性のものになっている!
 あわてて説明書を見るとそこには、

     鏡を見て自分の顔を確かめてみましょう。
     その時『こ、これが僕?』と言うのを忘れないように。
     でも安心してください。オナニーをして気を失うほどの快感を得れば。元に戻ります。

と書かれていた。

 僕はあわててユニットバスの鏡で自分の顔を確かめた。そこには元の自分とは似ても似つかない……いや、わずかに自分の面影が残る、とびきりの美少女が映っていた。

「こ、これが、僕?」

 別に説明書の指示に従ったわけじゃない。でも思わずそんな言葉を発してしまっていた。
 目を見張るほどの、僕好みの女の子。鏡に映るその美少女が、自分であることがもどかしい。だが見方を変えれば、自分の思い通りになるということでもある。
 はやる気持ちを抑えながら、着ていたTシャツを脱いで鏡に向かった。小さいけれども確かに女性の胸だ。ピンク色の乳輪に彩られた、赤味がかった乳首は既に硬く尖っていた。全体を包むように手で触れてみると、手のひらに触れた乳首の先からぴりぴりと全身に向かって快感が広がっていく。僕はあわてて実ったばかりの果実から手を離した。

「こ、こんなに感じやすいのか?」

 今度は両手をクロスさせるようにして、そっと胸に手を当てた。右手で左の乳房を、左手では右の乳房を。手のひらを少し浮かせて、あまり強く乳首を刺激しないように、ゆっくりと手に力をこめた。想像以上に柔らかな膨らみをゆっくりと揉むと、ジンワリとした快感が体全体を伝わっていく。中指でクリクリと乳首を刺激するとピリピリする様な快感が全身を駆け巡る。凄い! 胸だけでこんなに感じるんだ……。
 瞑っていた目を開くと、鏡にはうっとりとして頬を赤らめた美少女がこちらを見つめていた。それが自分であると頭ではわかっていても、興奮せずにはいられなかった。
 だが、硬いバスルームの床で、立ったままこの快感に耐え続けるのはつらい。後ろ髪を引かれる思いで、僕はベッドに横になった。胸からの刺激はあまりに気持ちよすぎて、立っていられなかったのだ。

「んぅ…… はぁ…… んっ! はぁ、はぁっ……  んくっ!」

 漏れる吐息が抑えられなくなるほど、気持ちよかった。横になってもほとんど型崩れのしない、張りのある乳房を揉むのに僕は夢中になっていたのだ。ぷにぷにと柔らかく、それでいてすぐに元通りの形に戻るこの乳房の感覚は、手のひらに心地よい感触をもたらす。しかも手のひらによって加えられた刺激は、確実に別の種類の快感、“性感”を全身に伝えてくるのだ。包むように優しく乳房を揉めば、ジンワリともどかしい気持ちよさが波のように広がっていく。尖った乳首を摘まもうものならば、まるで電撃を加えられたかの様に鋭い快感が、体の隅々まで駆け抜けていく。

「あはぁ、なんて気持ち良いんだろぉ……」

 甘ったるい淫声が、元の自分とは似つかない、とろけるような女の子の喘ぎ声であることにも、僕は興奮していた。
 柔らかな乳房は揉み方を変える度に、違った快感を生み出す。ささやかな乳房を手で包んで、下からぐっと持ち上げるようにしてから手を離すと、ぷるんっと元の形に戻るのも、快感とまではいかなくても心地よかった。
 新しく手に入れた、新たな性への探求に僕は夢中になっていった。
 全体をさするようにして揉むと、背筋をぞわぞわするような快感がわきあがりながら、四肢に熔けて行く。未知の領域に緊張して硬くなった体が、ふにゃふにゃになるような快感に、思わずうっとりとしてしまう。わざと痛いほどに乳首を強く摘むと、一瞬現実に引き戻されるほどに意識が醒めるけれど、つまんでいた指を離すと、ほっとするような快感が再び乳房全体を包んでから、体の隅々にまで染みとおっていった。
 柔らかな乳房を揉む手のひらの力が段々と増し、押しつぶすように乳房をこねくり回すようになり、痛いほどに尖った乳首を摘む指も、その先が白くなる程に強くなっていた。僕の頭の中は、この新しい自分の性器……乳房と乳首からどうやって快感を搾り出すかという一点だけに集中していた。

「アん! な、なんかクるうっっ!!!」

 裸身をはべらせていたベッドがゆっくりと波打つ様な錯覚を感じ、その波の背に合わせる様に体をしならせながら、僕の意識は白い世界に蕩けていった。

 翌日目がさめると、僕の体は元の男の体に戻っていた。

「胸だけで、イッちゃったんだ……」

 ただの貧相な板に戻ってしまった胸をさすり、一抹の寂しさを感じながら、もう一度試そうと僅かに残っていた口紅を塗ってみた。しかし既に変色していたそれは、何の効果ももたらさなかった。

 あの快感が忘れられない。胸だけでああだなんて……。

 僕は再び昨日のサイトにログインし、あの口紅を購入した。
 まとめ買いをしようと思ったが、どうも一度に一回分しか買えないようだ。アンケートに答えなければ決済が出来ない仕組みらしく、いくつかの問いに答えた。“どこを触っていて、イキましたか?”の欄には胸と回答した。どこがどんな風に感じたかも、なるべく詳しく書いた。“その他ご意見”の欄には、“もっと胸が大きいほうがいい”と書き加えた。

 次の日、届いた包みを開くのももどかしく、赤い粉を付属の油で溶いて口紅をつくり、僕は女の子になった。
 顔や姿は昨日とあまり変わらないが、胸が大きくなっていた。手にもしっかりとしたボリュームが感じられた。
 昨日確かめそこなった股間を見ようと足を広げてみたが、陰毛の生えていないつるんとした谷間はしっかりと閉じていて、指で開こうとしても痛いだけだった。
 だが胸の先は、乳首にちょっと触れたただけで、ものすごく感じた。
 仕方なく胸でイこうと乳房でオナニーを始めた。ねっとりとしたような快感でイクことは出来たけど、気を失うまでにはいたらなかった。

 何時間続けただろう? 

 何度も絶頂と思しき感覚にまで昇り詰めたが、気を失うほどにはならなかった。思いつくままに刺激の仕方を変えてみたが、乳首の感度が増していくものの、やはり気を失うほどではない。それに、揉み込むほどに狂おしいほどの切ない快感が、乳房からポンプのように全身に汲み出されていく。その気持ちよさに耐え切れなくなって、手が止まってしまうのだ。いたずらに失神寸前の絶頂を重ねるだけで、体力を消耗するだけだった。
 まずい、このままでは男に戻れなくなる。どうすればいいんだろう? 
 荒れた呼吸を整えながら体を起こすと、付きっ放しのディスプレイに目が留まった。
 そうだ、あのサイト。僕はログインしたままになっていたサイトのページをクリックしまくった。
 だけど出てくるのは、なぜか胸を縄でくくりだされた女の子の画像ばかりだった。縄で同じように縛るやり方も解説してあった。
 そうだ、これで試してみよう。
 僕はダブダブになってしまったTシャツとジーンズを身に付け、近所のホームセンターに急いだ。そして自分を縛る縄を物色した。店頭にはいくつもの種類と太さの縄が並んでいた。
 どれにしようか? 僕は見本を手にとって手触りを確かめながら、どの縄にするかを選ぶことにした。
 麻縄ではちくちくして痛そうだ。絹のロープなんて、こんなところで売っているはずないよな……。
 そんなことを考えながら、いくつかの種類のロープの中から、太いナイロン製のロープを選んだ。
 これならよさそうだ。
 
 会計を済ませようとレジに行く途中で、ふと思い出した。
 そうだ、鏡! 昨日した時、自分の姿(女の子の)をじっくり見たかったのに、僕の部屋にはユニットバスの小さな鏡しかなかった。どうせならもっと大きい、全身が映る奴が欲しい。
 並んだレジの列から取って返し、鏡売り場を探すと、あった!
 いくつもの鏡が並ぶ前に立って、僕ははっとした。乱れた長い髪に血走った目。だぶだぶの薄いTシャツからは胸の部分だけが張り出して、乳首が浮き出ている。そして何に使うのか、手には太いロープを抱えている。まるで襲ってくれといわんばかりの、少女が映っていたのだ。こんな姿で僕は外に出ていたのか!
 急に恥ずかしくなって、一番安そうなシンプルな姿見をつかんで、そそくさとレジに向かって会計を済ませ、逃げるようにして帰り道を急いだ。
 息が上がっているのは、重たい鏡を持ってかけてきたからだけじゃない。
 ほんの少しだけど、僕は性的に興奮していた。
 あのレジのアルバイトの貼り付くような視線が忘れられない。店の駐車場を横切るときに感じた、暇そうな大学生からの好奇な視線も。
 その証拠に、太ももを汗ではないものが伝っていた。

 早足で部屋に戻り、バタンと勢いよくドアを閉め、戸締りもしっかりと確認した。
 もしかしたら、襲われていたかもしれない……という想像は、胸の鼓動に別の意味の乱れを生じさせていた。
 ホームセンターの包装紙を乱暴に剥がして鏡を壁に立てかけ、まずは自分の姿を映してみた。
 今度は誰かに見咎められることはない。
 鏡を見ながら、僕は履いていたジーンズのボタンを外してファスナーをおろし、いやらしく足を抜いた。
 パンツが男物なのは知っていたから、それは見えないように一緒に脱いだ。
 そして鏡に見せ付けるように、下から差し込んだ手で胸を揉みながら、Tシャツも脱いだ。
 目の前の物欲しそうにこちらを見る全裸の少女が、自分でさえなかったら、すぐにでも押し倒して性欲をぶつけていたことだろう。
 それができないことがもどかしかったが、先ほどまでの行き場のない興奮を早く沈めたくて、鏡の中の自分の胸を揉み始めた。
 気を失うほどではなかったけれど、数分で絶頂を迎えることができた。
 僕は力なく床にうずくまり、余韻に喘ぐ鏡の中の自分に夢中になっていた。

 (もっと、モット…… ツヨイ シゲキガ ホシイ……)

 そう、気を失うほどの強い刺激が。
 僕は名残惜しげに鏡の中の自分を見送ってPCの前に座り、例のサイトにログインした。
 あんなふうに縛らなくっちゃ。
 買ってきたロープを使い、サイトの写真を見ながら、胸をくくりだすように縛ってみた。
 縄が体を締め付ける感触は新たな興奮を生んだけれど、これだけじゃまだ足りない。
 それに、まだロープはあまっている。
 僕はさらにサイトに潜り、そう、SMなんて言葉だけしか知らない僕でも知っている“亀甲縛り”を試してみた。
 サイトには丁寧に縛り方の手順が解説されていて、何とか自分を縛ることができた。
 首から股間に通す縄を少しきつめにしすぎたのか、斜めに渡す縄を最後に結んだとき、少し痛みが走った。
 僕の股間はまだ、この手の刺激を快感とは感じられないようだ。
 こんなに濡れているのに!
 そのことが少し残念に思えたが、それよりも鏡だ!
 期待に逸る胸を両手で抑えながらおそるおそる姿見を覗くと、上気して紅に染まった頬の上で瞳を期待に輝かせている、淫乱な少女が映っていた。
 全身を拘束する縄は少し乱れていたが、間違いなくサイトで痴態を晒されていた少女たちと同じ姿だった。
 鏡を見ながら固く尖った乳首をつまむと、それだけでもイってしまいそうだった。
 立っているのが辛くなったので、中腰になろうとしたとき、強い刺激が股間から伝わってきて、危うくそのまま倒れてしまいそうになった。
 ぬるぬるになった縄のごりごりした刺激に、股間が快感を覚えるようになっていたのだ。
 だが、あまりにその刺激は強すぎた。腰をくねらせるたびにまるで全身を電気が走るように駆け抜けていく。それは敏感な部分をやすりでこするような痛みと一緒だった。
 これじゃ刺激が強すぎて、その度に意識が引き戻されてしまう。
 僕はなるべく腰を動かさないように、鏡を見ながら胸への刺激に集中した。
 縄でくくりだされているおかげで、常に乳房に張り詰めるような刺激が加わっている。
 後は両手で欲望の赴くままに揉み、摘み、こねるだけだ。
 段々と大きくなっていく、胸の奥の何かが膨らみをまして行き、弾けようとする寸前だった。
 思わず腰が砕けて倒れこむと同時に、股間を強い快感と刺激が同時に襲った。
 鏡に映る、淫らな快感に口を半開きにして、涎を垂らしながら倒れこむ少女を見ながら、僕は気を失った。

 僕は後戻りの出来ない淫沼の深みに、はまりつつあった。
 昨日のことを思い出しながら、焦れる様に男の体で男のオナニーをした。だが、射精してもまったく満足できなかったのだ。
 あんなことを知ってしまった後では、一瞬で果てて急速に醒めていく男のオナニーに、満足など出来るはずもなかった。
 一日に何度もサイトにアクセスしては、購入ボタンを押す直前で思いとどまり、ブラウザを閉じた。
 そんなことを何度か繰り返しているうちに、あの誘惑には勝てずに、また口紅を買ってしまっていた。
 結局のところ、女の体の全てを試したわけじゃなかったからだ。
 別のアダルトサイトの通信販売で、ローターも買った。
 そして口紅が届くまでの間、今度はどんな風に試そうか、そればかり考えていた。

 届いた口紅を使っていつものように女の子になり、服を脱いだところでふと思った。
 口紅を塗って女の子になって、気を失うほどイって一日。翌日また口紅を注文して一日。そしてその翌日にまた女の子に……。
 つまり一日おきに女の子になっていることになる。
 だが、男の体で過ごす一日の、どんなにもどかしいことか……。
 いまここでもう一度注文すれば、明日にはまた新しい口紅がやってくる。そうすれば、毎日女の子の体で……。

 僕は裸のままサイトにログインし、通販のページを開いた。
 すると黒いバックに白い文字で、メッセージが表示された。

     商品をお届けしたばかりです。あなたは今、女の子ですか?

 ドキッとした。暫くするとメッセージの下に“YES”と“NO”の二つのボタンが現れた。一瞬自分の体に視線をめぐらせてから、“YES”をクリックした。

     あなたはいま、裸ですか?

 ……『YES』

     もう、オナニーをしましたか?

 『NO』

     あなたの女性器について、答えてください。陰毛は生えていますか?

 え? こんなことに答えるのか? ちらっと下を見る。
 ……『NO』

     色はどうですか? 色素沈着が見られますか?

 『NO』

     淫裂の長さを、指の長さと比較して答えてください

 長さ……? 僕は人差し指をそっと添えた。
 『人差し指、ぐらい』

     人差し指よりも、中指の方が奥の方まで届きますよ

 ドクン。

     淫裂を指で押し開いて、淫核(クリトリス)の大きさを、自分の体の一部と比較して答えてください

 左手の人差し指と中指を使って、そっと花びらを押し開いた。体の一部と比較して……?
 震える左手の、さらに親指を使って谷間の頂上よりも少し上のところを押さえて、ぐっと上に引っ張った。

「んくっ!……」

 敏感な蕾がむき出しになり、僅かな風にすら身を震わせた。
 鏡を見ながら、右手の小指をそっと添え、確かめてから回答した。

『小指のツメの、半分ぐらい』

 そのあとも、性器の形や大きさ、指で触れたときの感触などについて、執拗な質問が続いた。そして……

     膣口に中指を第2関節まで挿入してください。次に人差し指も同じように入れてください

 えっ? ゆ、指を挿入しろって? それも2本……?
 一瞬躊躇ったが、右手の中指をそっと入り口にあてがうと、じっとりと潤った泉から、指を伝って淫液が滴り落ちた。
 ゆっくりとサイトの指示通り中指を沈めていくと、ぞわぞわとするような感覚が全身を走り、異物が体の中に進入していく感覚で頭がいっぱいになる。
 さ、さらに人差し指……?
 僕はごろんと横になり、人差し指も同じように挿れた。

 ……いつまでそうしていただろう? 頭の奥にジンワリとひらがるものを感じたまま、呆けていた。膝を立てて足を開き、人差し指と中指を性器に突っ込んだままの姿勢で……。

「はぁ……、そうだ、続き……」

 指を抜いて身を起こし、マウスを掴もうとしたところで、右手がぬるぬるになっているのに気が付いた。
 なんとなく口元に濡れた指を寄せた。口の中で一瞬舌が動いてから思い直し、そばにあったティッシュを一枚とって拭い取った。
 ディスプレイには、真っ黒いバックに白い文字で一行、“次の質問に進んでください”と表示されていた。

     指は2本とも挿れられましたか?

『YES』

     3本目は入りそうですか?

………… 『NO』

     たびたびのご利用ありがとうございます。次回口紅と一緒に、購入特典を差し上げます

 ふぅ……。何とか購入できた。
 ブラウザを閉じると。急に自分の格好が恥ずかしくなった。
 気分が少し醒め、女体探検も一時中断することにした。

 全裸のままではいくらなんでも心許ないので、ワイシャツだけを羽織って昼食の準備をした。
 部屋の姿見にちらちら映る、裸ワイシャツの美少女に軽い興奮を覚えながら、買い置きの食料で簡単な食事を済ませた。
 途中でのどが渇いてもいいように、空いたペットボトルに水を入れてテーブルに置き、姿見の前に座った。
 ワイシャツの胸元深くまでボタンを外して、様々なポーズをとってみる。
 下着を着けていない、ギリギリのラインまで脚を開いてみたり、猫のように四つん這いになって、鏡を挑発するような表情をしてみたり。
 シャツに胸の突起がはっきりと浮かぶぐらいまで、自分をたっぷりと視姦してから、ボタンを全て外した。
 あらわになる白い少女の裸体に、心臓がどきどきとしてくる。
 そっと指を這わせると、待ちかねたようにとろっとした粘液の雫が伝う。
 音が立たないようにゆっくりと指を前後に動かすと、昨日は痛いほどに敏感だった肉芽も、今日は心地よい快感を股間から伝えてくる。
 僕はうっとりと目を閉じて、意識を集中させた。鏡の中の恥らう少女は、脳裏に映る淫女に交代した。
 少女が喘ぐ姿を想像しながら、目を閉じたまま交互に蠢く5本の白い細蛇がもたらす快感に夢中になっていた。
 ぷるぷると体を震わせ、軽い絶頂を迎えて目を開くと、満足げに蕩けきった少女が微笑み返していた。
 僕はゆっくりと姿見を倒し、硬く冷たい少女を抱きしめて、余韻に浸っていた。

「はぁ……、気持ちいい……」

 今日はじめての媚声。でも満足したわけじゃなかった。
 穏やかに上り詰めた後は、激しく狂うような快感が欲しい。
 抱きかかえていた鏡をベッドに運び、壁との間に横倒しに立てかけ、通販で取り寄せておいたローターを箱から出した。ためしにスイッチを入れてみるとブルルンと震える。

 「これ……、使ったらどんなだろう?」

 想像するだけで、背中をぞわぞわとする何かが駆け抜けていく。
 振動させたまま、そっとおへその下の辺りにローターを当てた。いきなりクリトリスに当てるのはちょっと怖かったのだ。ぶるぶるとくすぐったいような変な感じの振動が、伝わってくる。

 子宮、やっぱりあるのかな?

 だが、その器官の存在はよくわからない。ゆっくりと、下の方にローターをずらしていくと、くすぐったさに身を捩ってしまう。でもさらにその下は……。

「はうっ!」

 いきなりだった。痺れる様な強い快感が全身を襲った。あまりの強い刺激に、そこから手が逃げた。震える指がローターを挟んでいたけれど、もう一度、その強い衝撃をもたらした蕾に当てるのは躊躇われた。

「こんなの、耐えられないよ……」

 ローターのスイッチを一度切って、今度は指だけを艶々と光る突起にそっと当てた。触っているだけで心地良い、エッチなパルスを発信するこの場所は、指でそっと刺激しないとまだ耐えられそうにない。
 でも僕の未開発の秘部には、まだ探るべき場所が残されている。
 右手の中指を、潤った壺の入り口に当てると、待ちかねたように溢れ出す粘液が、乾いた指先をあっという間にぬるぬるにする。そのまま力を入れれば、ずぶずぶとどこまでも入っていきそうだった。僕は横になりながら左手を重ね、 ゆっくりと腕を伸ばすようにして、中指を埋め込んでいった。
 正面の鏡には、うっすらと涙を浮かべながら、両腕で胸の果実を絞るようにして股間に手を伸ばす少女が映っている。見えにくい下半身は、自らの手でその一番大切な部分を陵辱していた。異物感はあるけれど、挿れただけではそれほど感じない。ぐにぐにと掻き回すように指を動かして膣口をほぐしながら、膣壁の柔らかさと温かさを確かめてみた。

「んふっ……気持ちいい」

 2本目の指も第二間接まで入れて少し曲げて膣内を探ると、周囲とは少し違ったしこりの様なものが埋まっているところを見つけた。
 これ、たぶんGスポットって言う奴だ……。
 ぐっと押し込んでみると、おしっこがしたくなるような感覚がする。でも言われているほどには感じない。開発されていないから?
 目の前には、汗ばんで赤くなった頬に、物欲しそうな潤んだ瞳の、鏡の中の少女。

「だ、ダイジョウブだよね?」

 手繰り寄せたローターを先ほど、確かめた場所につぷっと挿れた。指を抜き、ぐっと腰に力を入れてローターの位置を確かめ、コントローラーを両手で握った。
 鏡の中の少女が、期待と不安に満ちた目で、見つめている。

「怖く、無いから……」

 言い聞かせるように声に出して、スイッチを入れた。

「んふぁあぁっっ!」

 低いうなり音とともに、胎内の女の器官から快感がとめどなく溢れ出し、全身を津波のように駆け巡っていった。下半身ががくがくと震えて、力が入らない。

「んぁっ い、、イクぅっ! イっちゃうぅ……」

 スイッチを入れていくらも経たないうちに、最初の絶頂を迎えた。だがローターの震えはとまらず、なおも性感を昂ぶらせるよう強い振動を送ってくる。

「はぁっ、はぁっ……、んくっ!んんんmmm………」

 すかさず、軽い絶頂が再び訪れる。腰ばかりか、手まで震え始めてきてコントローラーを離してしまった。

「やぁ……、はぁ……、あぅあぁ……」

 顎の力まで抜けて、涎がたれてくる。時折ぶるぶるという痙攣が下半身を襲い始める。太腿をすり合わせると、内股全体がぬるぬるになっているみたいだった。

「はぁ、はぁ、あぁ、……ぁ、ぁぁ、……」

 喘ぎ声も、うなり声のようになって、声も出ないほどの快感というのは、こんなことを言うのかと思った。
 だが、同時に頭の中に霞が立ち始め、ローターの振動が生み出すエッチなパルスが脳を麻痺させていた。
 もはや絶頂というものを通り越した、快感の荒海に翻弄されているような感じがした。
 意識を埋め尽くすような白い世界。

 このままじゃ溺れてしまう! 

 高波に飲み込まれるような恐怖に、震える手でローターを抜き、僅かに残った意識ですかさずクリトリスに当てると、目の前で強いフラッシュがたかれて全身が痙攣し、強い排尿感に似た開放感を同時に覚えながら、気を失った。

 次の日の朝、宅配便の鳴らすチャイムの音で目覚めた。
 手近にあった脱ぎ散らかした服で体を覆って、荷物を受け取った。
 ぼさぼさの髪と着崩れただらしない格好に、宅急便の配達員が少し顔をしかめた。後で気が付いたがそれは身づくろいが整っていなかっただけではなく、女の体臭を身にまとっていたからだった。甘いような独特の臭いに、汗の入り混じった少しすえた匂い。「性臭」が身にまとわりついていたのだった。

 例のサイトから届いたのは、いつもの封筒ではなく、小さな段ボール箱だった。たぶん購入特典が入っているのだろう。
 包みを開けると、小さな箱の中から“それ”が出てきた。細長い箱から想像できたとおり、男根を模したバイブレーターだった。

「これ……」

 ドクンと心臓が激しく波打ち、期待に胸が高鳴る。震える手でバイブレーターのスイッチを入れると、ぶるぶると震えながら、くねるような動作と伸び縮みを繰り返した。

「こ、こんなの入れたら……?」

 男の体に戻っていた僕は、想像するだけで勃起していた。熱くたぎり始めた股間に手を伸ばし、1週間ぶりに“男のオナニー”をした。
 けれども高みには上れるものの、一瞬で果てるその性戯には、とても満足できるものじゃなかった。
 ティッシュで後始末をすると、直ぐに僕は口紅を作り、唇を染めた。

 姿見には、見慣れた少女が映っている。期待に満ち、潤みかけた瞳。少し強張ってはいるが、赤く染まった頬。内面の淫乱さを表現するかのような、艶のある深紅の唇。くたびれた白いワイシャツの胸元には、膨らんだ乳房が作った谷間がのぞき、その膨らみの頂点には乳首が浮き出していた。足元に目をやると、すらりと長く伸びた白い2本の足が伸びていて、少し大きめになったシャツは、太腿の付け根をかろうじて隠していた。
 抱きしめたい衝動に駆られて思わず手を伸ばすと、透明な壁に阻まれるように左手の指先がカツンと音を立てた。利き腕である右手を伸ばさなかったのは、バイブレーターを握っていたからだった。
 つつぅっと、内股を雫が伝った。

「………!」

 この体はこれから行われる性戯……自らを陵辱する悦びと官能の大海に投じられることを想って、歓喜の涙を流していた。
 今日はたぶん、鏡はいらない。自分の顔の辺りが見えるように部屋の反対側に立てかけると、バイブを持ってベッドに横になった。

 股間に手を伸ばすと、もうぐっしょりと濡れていた。ぷっくりと柔軟性を増していた陰唇を開いて肉壺を探ると、2本の指も軽く飲み込んだ。だがバイブはそれよりももっと太い。ダイジョウブだろうか?
 でも、どうせ試さずになんていられない。震える手でバイブを握り、シリコンで出来た切っ先をあてがった。もちろんまだスイッチは入れていない。
 ぐっと手に力を込めると、ぷちゅっというような音がして、それが侵入してきた。

「んくっ……」

 やはり少し大きい。まだほとんど挿れていない筈なのに、まるで大きな杭を股間に穿とうとしているみたいだった。

「はぁっ!」

 それでも意を決して、バイブに込めた手の力を増して、ずぶずぶと自らの中心を貫いていった。強烈な異物感に、下腹部が拒否反応を示して、今にもそれを押し出そうとする。

「ち、力……、抜かなきゃ……」

 でも、太い……。太すぎる。昨日挿れたローターは指2本分よりも少し小さいぐらいの大きさ。でも今挿れているモノは指3本よりもまだ太い。

「ローション、買っておけばよかった」

 諦めていったんバイブを抜き、代わりに中指と人差し指を挿れた。ここまでは難なく飲み込む。3本目……薬指を同じように埋め込んでいく。何とか入るけれど、やっぱり入り口のところが少し硬いみたいだった。
 そういえば、処女膜は? 昨日指を挿れて掻き回した時も、裂ける様な痛みは感じなかった。恐らくはじめから無かったのだろう。処女喪失の痛みを体験できなかったのは、少し残念な気もしたが、女の子になる度に痛いのはちょっと困るかもしれない。
 3本の指をいやらしく動かして、入り口を揉み込むと、段々と硬さがほぐれていくような感じがした。何よりも膣口の周辺をこね回す行為が、また新しい快感を生み出し始めていた。体の奥深くを曝け出す様な開放感にも似た感覚。
 いったい、この体に潜んでいる快感は、どれだけの種類があるのだろうか?
 この曝け出された肉壺に、さっきの暴れん棒を埋め込んだら、どんな快感が得られるのだろうか?
 ぬちゃりという恥ずかしい音とともに指を抜いて、先ほどのバイブを再び膣の中へと埋め込んでいった。
 男性器を模したシリコンの物体。まだ少しきついけれど、もう痛くはない。カリに相当する部分が、Gスポットと思しきところを撫で上げると、キュンとするような快感が走る。でも長くて太いバイブのまだ半分も挿入っていない。全部挿れると、根元の側のイボイボの部分がここに当たるかも知れない。そんなのに、僕は耐えられるだろうか? だけど、もう止められない。Gスポットのことばかり考えながら、ゆっくりと太いものを押し込んでいった。
 やがてコツンと何かに当たった感じがした。シリコンの異物は終にこの体の最奥部にある、子宮の入り口に到達したのだった。この体が完全に女になっていることの証だった。

「あ、お、奥に、オクに当たってるよぉ……」

 初めて体験する、体の奥深くにある内臓を刺激する快感に、感動すら感じていた。
 けれど、処女地を征服するシリコンの乱暴者は、まだその真価を発揮してはいない。
 僕はコントローラーを手繰り寄せ、スイッチを入れた。

「きゃぅっ! ああぅっ! いやっ! やぁ、いやぁっっっ!」

 グイーン、キュイッキュィ……という音とともに、脊髄を直接ねじられるような感覚が襲ってきた。快感を通り越したあまりの刺激に、体を激しくのたうたせた僕は、コントローラーを手放してしまった。苦しいほどの刺激に、もはやコントローラーを手繰り寄せることも出来なかった。
 かつて無いほどに鼓動が高まって、今にも気を失いそうになる。
 何もかも、放り投げ出したくなるほどの強い刺激。必死に意識をとどめようと、はかない抵抗を続けるうちに、体がねじ切られるような強い刺激を、脳がとろけるような快感に置き換えていった。

 頭の奥がジンワリとして、あの世界に僕は再びやってきた。天国にいるみたいだと本当に思った。
 まぶたを閉じているのに、目がチカチカとして視神経はさまざまな模様と色を複雑に変化させながら伝えてくる。
 もしかしたらあまりの快感に狂っているのかもしれないと思いつつも、そんなことはもうどうでも良く感じていた。
 自分の体に形を感じなくなり、唯一バイブレーターの刺激する快感を生み出す肉の器官だけが、自分であるような錯覚さえ感じていた。
 押し寄せる官能の波に揉まれて漂い、大波が押し寄せて体がバラバラになってしまいそうな感覚がしたとたん、激し痙攣を起こして、同時に周囲のものが形を取り戻していった。
 内股にごろんとした異物感を感じた。あまりの快感に膣がバイブを弾き出してしまっていたのだった。
天界から堕ちていくように周囲のものが現実感を取り戻し、打ち寄せていた官能の大波の、後波の一部になっていた。淫らにひくつく性肉の塊が、弱々しい少女の体へと形を取り戻していった。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、……」

 荒れた息づかいと、激しい鼓動。二の腕に当たっている柔らかな自分の乳房からも、激しい拍動が伝わってくるようだった。
 だんだんと呼吸も、心臓も平静さを取り戻し、僕は現実に還ってきた。

「はぁっ、ホントに……、死んじゃうかと、思っ、た…………」

 ベッドの反対側の壁に立てかけた鏡を見ると、ベッドにうつ伏せに突っ伏して、汗で前髪をぐっしょりと濡らした少女が、こちらを不安そうに見つめていた。

 気を失うほどの絶頂が、性戯の果ての頂点だと思っていた。
 でも知ってしまった。昨日までの頂点は、身の危険を感じた脳が、強制的に自らの意識をフリーズさせていたのだった。
 でもさっきのは……今までのとは全然違う。

 一線を越えてしまった。

そう思った。

 まずいと思っていた。あんな世界を知ってしまったこの体に、いったいどんな刺激を与えれば、気を失うなんてことが出来るのだろう?
 ろくに食事もとらず、ほとんど一日中オナニーを続けてみたが、いたずらに体力を消耗するだけで、快感のうちに果てることは出来ない体になっていた。
 確かに、あの白い世界にまでは到達できる。だがそこから先は……。天国にも似たその世界は、死とつながっているかのような恐怖を感じていたのだ。
 快感と恐怖がせめぎ合い、どうしてもその先には進めなかった。だけど、いつまでも女の体のままでいるわけにも行かない。

 僕はあのサイトにアクセスしたけれど、出てくるのはいつもの奴隷たちの画像ばかり。縛られ陵辱されている少女たち。でも無防備なそのカラダを攻め立てられる快感は、彼女たち自身では得ることが出来ない。自らの体の自由を放棄し、陵辱者に身を委ねているからこそだった。
 仕方なく、僕は一人でも出来ることを考えた。要するに、自分の意思で責めを止めることができなければいいわけだ。そんな浅はかなことを考えていた。
 僕は亀甲の自縛をして、胸をくくりだした。足を閉じれないように開いた状態で、膝も縄でくくってベッドの両脇に固定した。それから震える手で股間にバイブをあてがい、溢れてきたぬるぬるを絡めとる様にねじ込んだ。そして上から股縄を通して、簡単には抜けないようにした。
 とりあえずバイブのコントローラーを手にしてスイッチを入れてみた。ダイアルは最強。とたんに激しい快感が襲い、あわててスイッチを切った。だがこれでも、電池が切れるまで僕は気を失うことが出来ないだろう。
 ローターをクリトリスに当たるようにテープで止めた。硬く尖ったむき出しの乳首もクリップで挟んだ。痛いのは最初だけで、やがてジンワリとした快感を生み出してくれることも、もう体が覚えていた。
 机の上の鍵をもう一度確かめてから、バイブとローターのスイッチを入れる。とたんに激しい快感が襲い始めた。思わずスイッチを切りたくなるのを必死に抑えながら、後手に手を組み用意しておいた手枷をロックした。
 全身が性器と化した女の体が汲み出す快感を、かろうじて押しとどめていた意識を解放すると、待ちかねたように体が震えだし、のたうち回った。
 きつく拘束された下半身を振動しながらくねり、突き上げるように女の生殖器を陵辱するバイブは、体を裂くかのように暴れ周り、クリトリスに当てられたローターは、直接脳の中で快感中枢を刺激しているような錯覚さえ感じた。乳首のクリップはいつの間にか両方とも弾け飛んでいたが、それがかえって先ほどまでの疼くような痛みですら、快感であったことに気づかされ、もどかしく放置された尖りが、よりいっそうの切なさをもたらしていた。

 半開きの口から流れる涎と、部屋にこだまする唸り声のような嬌声も、自分の意思では止めることすらできなくなっていた。口枷もしておいたほうがよかったかもと、狂いかけた意識の片隅で思った。
 そして意識は、チカチカと明滅するオーロラの支配する世界に辿り着き、やがて降りてきた白い霧に埋め尽くされていった。そしてその霧に包まれると、もう自分の体を意識することはなくなっていた。
 全身からくまなく与えられる刺激に快感以外の何も感じない。
 バイブにこね回される膣壁も、痛いほど張り詰めていた乳首も、敏感な肉の蕾も、体に食い込む縄の痛みも、足の指、手のツメ、首筋、肉体を覆う全身の皮膚……そしてそれを脳に伝える脊髄でさえ、快感に埋め尽くされていた。
 どこを刺激されても気持ちがいいとしか感じられないのだから、体なんて存在しないのと一緒だった。
 そして、僕はそのチリチリとする官能の白い霧に融けていった。

 気が付くと、体が元に戻っていた。しかし股間には違和感が残っていた。
 上半身は男に戻っていたが下半身、正確には性器だけは女のままだった。
 気を失ったとき、バイブが体を貫いたままだったのだ。それゆえに、性器だけは元に戻らずに女のままだったのだろう。このままではいくらなんでも困る。
 どうすればいんだろう? 
 恐らく今までの経験から考えて、この部分だけではイけないだろう。その証拠に、刺さったままのバイブをいくらこね回しても、痛みを感じるだけで何の快感も得られなかった。

 気をもみながらアンケートに答え、口紅を注文し届くまでの一日を不安でいっぱいになりながら過ごした。
 元に戻れなくなったらどうしよう? 股間だけ女のままだなんて困る。早く口紅を塗って、そして……。

 “元の女の子”に、戻りたかった。

 だが、そんな心配をよそにサイトから送られてきた口紅を塗ると、元通りの少しすねた表情の少女に戻ることが出来た。
 あれから刺しっぱなしになっていたバイブから、再び強い性感が戻ってきていた。
 でも……? 不安が頭を掠める。

 快感の果てにたどり着いた、色とりどりの光とオーロラ、そして白い霧が満ちる世界。
 今度はいったいどれほどの性的刺激をこのカラダに与えれば、気を失う程の快感が得られるのだろうか?

 僕は思い出した。サイトの入り口は二つあったことを。“開発コース”と“調教コース”。
 “開発コース”の意味することは、自ら変態した自分――少女の体に眠っていた、官能の回路を目覚めさせていく事だった。
 アンケートに答え、男の僕は女の自分が求める快感を、自らの意思で開発していたのだ。

 では、“調教コース”は?

 今まで選択することが出来なかった“調教コース”。
 行き止まりを感じていた“開発コース”……。
 自分の、女の体はもう初心な少女の体などではない。自慰だけであの世界に行って戻ってくることは、もう無理なのかもしれない。
 (そうだよ、自分でやっているだけじゃ駄目なんだ。誰か他人からの、自分では思いつかないような、新しい刺激が僕には必要なんだ……)
 体の中の悪魔がそう囁いたような気がした。
 一度しかクリック試していなかったボタンをおそるおそるクリックすると、そこにはこう書いてあった。

    ようこそ、調教コースへ。ここではいつもの口紅と一緒に、こちらからの指示書をお送りします。
    それに従って安心して絶頂を迎えてください。新たな領域に到達することが出来るでしょう。
    本当の快感をあなたに……

 そして現れたのは、淫れた少女の画像一つない、シンプルな通信販売の画面。
 相変わらず、選ぶことの出来る商品は口紅1回分だけ。値段は100ビットキャッシュ。
 10倍になったけど、それでもたいした金額ではなかった。買うだけで使わなくたって、僕の自由だよな……。

 でも、新しい口紅と一緒に届くという指示書を読むまで、僕は女のまま……?

 男の体と女の体、どちらの体でいるにしろ、食事とか身の回りのものは必要だった。
 少し悩んで、僕は女の体のまま、買い物に出かけることにした。
 着る服は慎重に選んで、この前のように明らかに乱れた格好のままにならないように気をつけた。
 長い髪にブラシを通し。Tシャツの上に厚めのダンガリーを羽織って、ジーンズは裾をきちんと折り返した。
 これなら、少なくともこの前よりもまともな格好に見える。目立たない感じの女の子になれた。
 僕はつばのある帽子を目深にかぶって、外に出た。

 こんな姿では知り合いにあっても声をかけられる筈も無いのに、びくびくしながら近所のスーパーへ行き、大量の食糧を買い込んだ。この前みたいに、何日も男に戻れなかった場合に備えて。
 スーパーへの帰り道、ふとある店のショーウィンドウに目がとまった。女性用の服、やはり必要だろうか?
 いや、この姿はあくまで仮の姿。女の子の服を着て出歩くなんて、ごめんだ。

「お嬢さん」

 心臓が飛び出るかと思った。後ろから声をかけられたのだ。
 おそるおそる振り返ると、店の店員と思しき背の高い若い男性が、営業用の笑顔でワタシを見ていた。

「どう? 寄っていかないかい? キミに似合う服もいっぱいあるよ。僕が見立ててあげようか?」

 そういうと、店員の男性はワタシの顔を見ながら視線を下へと移していってから、もう一度ワタシの顔を見た。
多分、服のサイズの見当をつけたのだ。着ている服を透かして、ワタシのカラダを確かめるような視線で。

「い、いえっ! け、けっこうですっ!!」

 ワタシはその場を、あわてて後にした。息を切らせて、両手いっぱいの食料の入ったスーパーの袋を抱えて、何かから逃げる様に走った。
 ようやく部屋の戸を閉めて、カギを確認できたときには、完全に息が上がっていた。

「イタい……」

 僕は胸をさすった。とがった乳首の先端が服にすれて、痛いのを我慢して走ったのだ。
 支えの無い柔らかな胸の膨らみが、手足を前後に繰り出すたびに揺れて、シャツに擦れていたのだ。ただでさえ両手にかかる重量が、乳房を強調するように腕を突っ張らせていたのに。

 それにしても……。

 あの店員の視線が頭にこびりついていた。このカラダを値踏みするようなねっとりとするような視線。
 実際にはほんの一瞬だったのだろうけれど、あんなに他人の視線が恥ずかしいと思ったことは無かった。

 実家から持ってきた救急箱に包帯が入っていたのは幸運だった。
 ひりひりする乳首を保護するようにして、上半身にサラシのように巻きつけた。

 何度かオナニーをしようかと思ったけれど、サイトから送られてくるという、指示書を待たなければいけないような気がして、我慢した。

 深夜、あの店員に視姦される夢を見て、飛び起きた。
 じっとりとした寝汗が全身を、汗でない液体が股間を濡らしていた。

 翌日、今か今かと待ち続けた宅配便は、お昼を過ぎてからやってきた。女性の配達員から、荷物をひったくるように受け取ると、いつもの口紅のセットと、小さなメモリーカードが入っていた.添付されていたメモによれば、調教コースへアクセスするための専用ソフトということだった。

 フォルダの中の圧縮ファイルをウィルスチェックもせずに解凍し、実行ファイルをダブルクリックすると、ウィンドウが開き、メッセージが表示された。

     ご主人様からの指示を伝えます。
     「女性の姿で、女性用の下着と服を買いに行きなさい。」
     「どんな下着と服を買ったのか、写真を撮って次のメールアドレスに送る様に」
     との事です

 この姿で服を買いに行け? それも女性用の下着まで……。
 僕は悩んだ。昨日のあのブティックの店員の視線を思い出してしまったのだ。
 今度は、ちらっと値踏みされるような視線だけではなく、じっくりと見られてしまうかもしれないのだ。

 恥ずかしい、このカラダを……。

 でも、指示のとおりにしなくてはならない。
 僕は昨日よりも念入りに身支度を整え、財布を確かめてから外に出た。

 (恥ずかしい。誰かに見られたらどうしよう?)

 そればかり考えながら歩いていると、いつのまにか昨日の店の前を通り過ぎていた。
 あわてて引き返し、店の中をうかがった。するとまた後ろから声をかけられた。

「おや、君は昨日のコだね? いらっしゃい。何かお目当ての服でもあるのかな?」
「え? い、 イイエ……。 あの、ソノ……」
「どうかした?」
「あ、あの! ふ、服をください!」

 そういうのが精一杯だった。ブティックで“服をください”だなんて、バカもいいところだ。でも、気が動転してそれしか言えなかった。しかし、昨日の男性の店員はにっこりと笑うと、ワタシの手をとって店の中に引き入れた。

「いいよ。どんな服がいいのかな?」
「あ、あの、困ります……」
「ああ、ごめんごめん」

 男性店員は手を離して、頭を掻きながら言った。

「時々注意されるんだ。お客さまに馴れ馴れし過ぎるってね。気を悪くしないでくれるとありがたいな」
「い、いえ……そんな……」
「緊張してるの? こういうお店は初めて?」
「は、ハイ……」
「珍しいね。おしゃれにはあまり興味なかったのかな?」
「ハイ……」
「昨日も思ったんだけど、キミはもっとおしゃれに気を使ったほうがいいと思うよ。せっかくそんなにかわいいんだからさ」
「ハイ……」

 カワイイ? セールストークなんだろうけど、今のワタシは容姿のことを言われるのが、すごく恥ずかしかった。

「そんなに緊張しないで。じゃあさ、僕が見立てていいかな? キミにイメージぴったりの服があるんだ」
「オネガイシマス……」

 男性はクスッと笑うと、たくさんの服がかかっているハンガーから、いくつか服を選んで戻ってきた。

「試着してみてくれる? サイズも合うと思うんだ。きっと気に入るのがあるよ」
「エエ……」

 ワタシは受け取ろうとして、はっとなった。

「あ、あのっ! し、下着もありますか!」
「下着? それはちょっと、僕が選ぶのはマズイんじゃないかな? 待ってて、いま店の女の子を呼んでくるから」

 男性はちょっと困ったような顔をして、店の奥へ行った。そして、出てきた女の人に何か話すと、その女性がこちらへやってきて言った。ワタシよりもずっと背の高い女性だった。

「下着をお探しですか? サイズは判ります?」
「いえ……」
「では、測りましょうか? こちらへきていただけますか?」

 後についてくるように身振りで示しながら、カーテンがかかる試着室に案内された。

「では、服を脱いで頂けますか? サイズをお測りしますから」

 言われるままに、服を脱ぎ始めたところで気がついた。着ている服も、いや下着だって男物だ。この大きさの胸ならしていてもおかしくない筈の、ブラジャーだってしていない。その代わりに、包帯を巻いていた。

「どうしたの?」
「あ、いえ……、その……」

 この場から逃げ出したかったがそうもいかない。僕は意を決してパンツ以外は全部脱いだ。

「あら、男物? それに、ブラの代わりに包帯? 彼氏のところからでも来たの?」
「あ、いえ……」
「いいわよ、隠さなくても。それじゃ一式必要ね。サンダルだって、それじゃあんまりだものね」

 店員の女性は明らかに誤解していたが、それを否定する言い訳も思い浮かばなかった。

 体のサイズを測られるのは、恥ずかしくてたまらなかった。ただでさえ全裸に近い女の姿を人前に晒しているのだから。例え相手が女性であったとしても恥ずかしかった。
 店員の説明も上の空で、“ハイ”とか“エエ”、とかあいまいに答えて、あきれさせていたが、突然、乳房をわしづかみにされ、思わず叫んでしまった。

「ひゃんっ!」
「あら、ごめんなさい。でもそんなにびっくりしなくても。サイズは89のFですね。うらやましいですわ。立派なプロポーションで」
「は、はは、はい……」
「少々お待ちを」

 さっきの刺激のせいだろうか、少し乳首が立ってる。少しうつむいて、胸を押さえながら頬を紅潮させている半裸の少女が目の前に立っている。自分で見ても扇情的だ。

「これなどいかがですか? いくつかお持ちしましたが……」
「あ、あの、ひとつだけで」
「実際につけてお選びいただいても結構ですよ」
「は、はあ……」

 女性の下着が高価だということは聞いたことがある。上から下まで一式揃えたら、かなりの額になるかも知れない。
とりあえず、店員の持ってきてくれた下着の中から一番シンプルな、白の下着にした。ピンクや紫の下着を選べるほど、オンナになりきれてはいなかった。

 ワタシはじっと見られていることに気づいた。

「あ、あの……」
「ああ、ごめんなさい。見られていては、着替え難いですよね」

 シャッとカーテンが閉じられたのを確かめてから、僅かに身につけていたものをおそるおそる脱いだ。
 自分の部屋以外で全裸になるのは初めてだった。たった一枚のカーテンで隔てられた外には、あの女の人、それに あの男性の店員もいるんだ……。いけない、そんなこと考えちゃ!
 どきどきしながら、初めて身につける女の下着に、さらに動悸が早くなっていく。
 記憶の中の女性の下着姿を思い浮かべながら、何とか上下とも身に着けた。小さな布でぴったりとくるまれた腰周りはそれなりに体に馴染んだが、ブラの方は少し違和感があった。

「あ、あの……」
「カップの位置の調整ですか? お手伝いしますよ」
「お願いシマス……」
「では失礼して……」
「ひゃっ!」

 いったんホックを外されたあと、位置をずらしてからはめなおすと、いきなり乳房を包むように手で掴まれ、カップの中に押し込まれていた。

「こうして、周りの肉も中に押し込む様な感じで……、ストラップの長さはこれぐらいかしら?」

 まるで強く愛撫されているかのような手の動きに、気を動転しかけた。

「こんな具合でどうですか? ぴったりのはずですけど?」
「は、ハイ……」

 正直、初めて身に着けるのだから、これでいいのかどうか良くわからなかった。だが、確かに包帯よりは収まり良く、胸も苦しくは無かった。

「大丈夫、みたいです」
「他のも試されます? どれもサイズは一緒ですけど、付け心地は少しずつ違いますよ?」
「あ、いえ……、それよりも上着を……」
「かしこまりました。ではご希望を一応伺わせていただきますね……」

 ワタシは“なるべくシンプルなものを……”とリクエストした。
 服でおしゃれを楽しむほどには、ワタシは女になりきれてはいなかったのだから。

 その後いくつかの服を見せてもらい、店員の進めるままに花柄のひらひらしたワンピースを選んだ。
 無難そうだったのと、これなら一人で着るのも楽そうだと思ったのだ。
 大体サイズはわかったのだから、後はネットの通販なり、オークションなりで手に入れればいいと思った。
 あれ? 女の子の服を買うのは、あくまでご主人様の命令だからなんだよね?

「あのー、これ合計でいくらぐらい?」

 値段を聞いたら、持ち金にギリギリ足りない。どうしよう?

「ご予算的にきついですか?」
「ええ、まぁ……」
「値引きいたしますよ。そうですね、あなたカワイイし、その服を着てモデルになってもらえるなら、50%オフでいいわよ。ねぇ店長?」

 何時の間にか、さっきの男性店員がそばに来ていた。あの人が店長だったのか!

「ああ、いいとも。どうするかね? キミ」

 半額は魅力的だ。それにどうせご主人様に写真を送らなければならないし。
 撮られた写真が、不特定多数の人間に見られるのはまずいような気もしたが、この姿は口紅を塗ったことによる、あくまで仮のものだからと、自分を納得させた。

「ええ、それでお願いします……。あの、写真のコピーをいただけますか?」
「いいよ。デジカメだから、メディアに焼いてあげる。」
「決まりね、じゃこっちへきて。メイクをするから、髪も軽くブローしたほうがいいわ」

 女性の店員に店の奥の部屋に案内された。

「あなたは元がいいから、ナチュラルなメイクがいいわね。軽くファンデをして、ルージュもナチュラルピンク。アイラインも少し直したほうがいいかな?」

 何を言っているのか良くわからなかったけど、化粧のことなどわからないワタシは、小さくハイとうなずくしかなかった。

 『アクセサリーは何がいい?』とも聞かれたが、やはり自分にはどう選択して良いか解らなかったので、『プロに任せます』と言って、選んでもらうがままになっていた。

「……できた。どう?」

 数十分後、ドレッサーの前には自分でも目を疑うほどの美少女が座っていた。
 自分で言うのもなんだが、ラフな男物の服に化粧も無し、髪を飾るリボンも無しでも十分にカワイイと思っていた。
 だが今、他人の手によって仕上げられた自分は、誰が見ても文句の無い美少女だった。
 ブローされた髪の一筋から、身に着けている下着、薄い布のワンピース、メイク、どれをとっても、いや裸の自分ですら口紅で変化させられた、“他人の手によって仕上げられた女の体”だった。

「こ、これがぼ……、ワタシ?」

 同じようなセリフを前にも言った。

「これなら、きっと彼氏も喜ぶわよ」
「彼氏だなんて……」
「あら、それじゃ、ご主人様かしら?」
「えっ?」

 つい反応してしまった。だけど、女性店員はいたずらっぽい笑みを浮かべていて、それが単なる冗談だったのだろう、と思った。
 しかし、次の一言はワタシをうろたえさせた。女性店員は耳元でそっとささやくように言ったのだ。

「アブない遊びは、ほどほどにしておいたほうがいいわよ」
「っ!!」

 続いて撮影。また別の部屋へつれられていった。驚いたことにちょっとしたスタジオになっていて、店長が自らカメラマンをすると言うことだった。

「広告に載せる写真を撮るためにね、普段からこんな場所を準備してあるんだ」
「そ、そうなんですか?」
「そんなに緊張しないでくれるかな? 表情が硬くなってしまうから」
「こんな風に写真を撮ってもらうなんて、初めてだから……」
「もっとリラックスして。同じカットの写真を何枚も撮って、その中からいいのを選ぶから、自然にしていればいいよ」

 言われるままにポーズを取り、表情を作りながら、ワタシは写真を撮られていった。

 レンズを逆に通して見える、大きな瞳に見つめられ、カラダがむずむずするような居心地の悪さを感じていた。シャッターを切る音がするたびに、体が一瞬ぴくんとなったが、何枚も撮られているうちに、自分でも落ち着いてきたのか、緊張がとけてきた。

「いいねぇ、だんだん表情も良くなってきたよ」

 そんな言葉に、ちょっぴり気を良くして、自然に言われるままの表情もできるようになってきた。

「じゃ、脱いでくれるかな?」
「えっ?!」
「下着姿も撮らせてもらうよ」
「だ、だって、そ、そんな……」

 いつの間にか後ろに立っていた女性店員に、背中のファスナーを下ろされていた。強引ではないけれども、巧みな手さばきで、ワタシはあっという間に下着姿にさせられていた。服を脱がされているその間も、カメラのシャッターは切られ続けていた。

「無駄毛の処理は大丈夫かしら? さっきワキの下は見たけど……」

 そういいながら、女性店員の白くて長い指が、足の付け根と下着の境界をなぞり始めた。
 微妙なラインを指で辿られるのを、必死に手で抵抗しながら、ワタシはとんでもないことを口走ってしまった。

「イヤっ! あ、ああの、ワタシ、は、生えていませんから!」
「あら、そうなの?」

 言ってしまってから、恥かしさのあまり下を向いてしまったので表情は見えなかったが、二人がその言葉に反応したことだけはわかった。
 遺伝的にアンダーヘアの生えない女性もいることは知っていた。
 だが大半の女性にはある、身体の中で最も恥かしい部分を隠してくれる
筈の叢が、このカラダにはなかった。それに薄布一枚に隔てられただけの縦筋が、うっすらと浮き出ていた。
 普通の人より少し無防備なこの少女の体は、今にもカメラという道具によって隅々まで暴き出されようとしているのだ。それを思うと、身を捩りたくなるようなむずむずした感覚に襲われた。

「お、なかなかいいね。その表情……そのまま横になってくれるかな?」
「店長ってば、相変わらず、イヤらしいんですから……」

 二人の笑顔に妖しいものを感じながらも、僕は抵抗することができず、女性店員にされるがままに、カラダを横に寝かせられ、ポーズを取らされた。

 気を使ってなのか、それともわざとなのか、ワタシに思うままのポーズを取らせようと這う手は、触れるか触れないかの微妙なタッチだった。そのもどかしさに、ワタシはだんだんと感じ始めていた。

 頬が上気し、うっすらと全身に汗が浮き出し始めたのは、撮影のためのライトのせいだけじゃなかった。

 じゅん! 

 意識は半ば朦朧としかけていたが、下腹部から汗で無い何かが染み出していく感覚で、我に返った。

 (このままじゃ濡れてるのがばれちゃう!!)

 そう思った瞬間。店長が構えていたカメラのレンズにキャップをしながらいった。

「ここまでにしておこうか。いい写真が撮れた。ご協力に感謝。データは今すぐに焼いてあげるからね」

 女性の店員も上からバスタオルをかけてくれて、僕はようやく平常心を取り戻していった。

 「いい写真が撮れたお礼に、これもおまけね」

 買った服を着せてもらい、メイクを直してもらったワタシは、モデル代替わりにと薄手のハーフコートを一枚おまけにもらい、支払いを済ませて店を出た。
 店に来るときに着ていた服を入れてもらった紙袋を持ち、ふらふらとした足取りでワタシは部屋に戻った。

 (写真を撮られるだけで、あんなに感じてしまうなんて……)

 初めて身に着けたブラジャーに包まれる胸の尖りは、今も敏感に尖ったままだった。

 逃げるようにして部屋に戻ったワタシは、周囲を十分に窺ってからドアを閉じて鍵をかけた。
 冷たい水で渇いたのどを潤してから、ワタシはPCに向かった。

 どんな写真を撮られていたんだろうか? 
 それがとても気になっていた。とにかくまず、コピーしてもらったメディアを再生した。

 何十枚もの画像ファイルのはじめの方は緊張したぎこちない表情のものだったが、ファイル番号が大きくなるにつれて自然な、魅力的な美少女のものになっていった。
 これならご主人様に送ってもイイかな? と思いながら、次のファイルを開いた。

「こ、これ!」

 画面には、うっすらと涙を浮かべながら、服を脱がされている自分が写っていた。
 下着姿の写真を撮られようとしている時のものだ。陵辱者こそあのブティックの女性だったが、必死になって抵抗しながらも服を剥ぎ取られ、レイプ直前であることを妄想させるに、十分な写真だった。
 抵抗もむなしく下着姿にされた少女は、顔を紅く染めながらも扇情的なポーズをとり、きわどいアングルから撮られた写真は、ポルノ雑誌に載っていてもおかしくないような、フェティシズムでいっぱいだった。
 こんな写真を撮られていたんだ……。
 自分では鏡を使っても見ることできないアングルから撮られた、アップの写真。そのショットを撮られていたときの記憶はまだはっきりと頭に残っている。

『カワイイねキミは……』

 店長はあの時、確かにそう言っていた。ファインダーの中に、今時分が見ているのと同じ場面を見ながら、そう言っていたんだ。自分が今この瞬間も同じように、たった一枚の薄布越しに局部を他人の視線に晒しているような錯覚を感じた。
 視姦……目で犯されるという意味を、初めてカラダで感じた。
 他人の視線によって惹起される、性の感覚。
 それを意識し始めたら、始めの方の写真ですら、性的な予感を感じさせられるものに、変化してしまった。
 初心な少女が、恥らうような笑顔を見せていた数分後には、こんな無防備な下着姿を晒してしまうんだ。
 そしてその憐れな生贄の羊こそ、ほんの少し前の自分自身なのだ。
 そんな背徳的な事実を元に、一つ間違えば起きていたかもしれない妄想に興奮していた。
 いつの間にか体が火照り始めていて、下着にも性的に興奮していることを示す変化が現れていた。

 ふと画面の隅を見ると、アイコンが点滅していた。
 サイトへの専用アクセスソフトだ。ダブルクリックすると、真っ黒なウィンドウが開き、赤い文字でメッセージが表示された。

     かわいい僕の奴隷。僕がキミのご主人様だよ。
     新しい服は買えたかな? 写真を楽しみにしているよ。
     キミからは判らないかもしれないが、僕はキミをちゃんと見守っているよ。

     さて、そろそろ、イカせて欲しいだろう?
     女の子の服を着たまま、鏡を見てオナニーをしなさい。
     ブティックでの体験を、細かく思い出しながらするんだ。
     それとこれからはイク時は

”ご主人様、エッチな私にイクことをお赦しください”

     と言うんだ。いいね。

     愛しているよ、僕のかわいいお菓子ちゃん。

 ご主人様……。

 リアルでそう言うのはとても抵抗があるだろう。だけど、これはあくまで仮の、お遊びなんだ。でも、

「……ご主人様」

 と、そうつぶやいたとき、官能の細波(さざなみ)がカラダの中を駆け抜けた。
 それはたぶん気のせいだと思い直し、送られてきたご主人様からのメッセージに、ブティックで撮ってもらった写真を何枚か添付して、返信した。
 服を脱がされている連続写真だけは、一枚も送らなかった。

 そして、ご主人様の言うとおりに、自慰を始めた。
 見知らぬ人の前に肌をさらす自分。突然直接もまれた乳房へのあの感触。初めて身につける女の下着。メイクをしてもらい、髪をブローされる自分。“カワイイね”などといわれながら、言われるままにポーズを取り、表情を変え、写真を撮られる自分。
 レンズを逆に通して大きく見えた、あの男性店員の瞳が忘れられない。
 いつの間にか想像の中のご主人様は、あの男性店員になっていた。

“カワイイ服だね。脱がせてもいいかな?”
「いや、やめてください、ご主人様」
“カワイイ下着だね。でもこれは何かな?”
「イヤ! 手を入れないでください、ご主人様」
“カワイイ乳首だ、つまんでもいいかな?”
「ダメです、そんなに強くしないでください、ご主人様」
“カワイイ反応だ。指を挿れたらどんな反応を見せてくれるのかな?”
「きゃふっ! もっと優しくしてください、ご主人様」

 淫らな想像は次第にエスカレートし、2日も溜め込まれていた性欲の塊が、次から次へと堰を切ったように溢れ出てきた。

 下着のサイズを測ったのは、あの男性店員に代わっていて、ほんの一瞬だけ生で触れられた乳房は、強引に揉みしだかれていた。想像の中のあの試着室で、ワタシはあの男性店員に辱めを受けていた。そしてスタジオの明るいライトに照らされた裸を曝け出しながら、あの男性店員に犯されていた。

“カワイイ僕のお菓子、イってもいいぞ”
「はひっ、ご、しゅヒんさまぁっ、えっちなぁ、ワタヒにぃ、ヒイクことをお、ゆるひくだひゃいっっ!!」

 絶頂寸前の途切れがちの息の中から、ご主人様の指示通りの言葉を搾り出した。
 全身がぶるるんっと震えて達した後に、快感の満ち潮が穏やかに引いて行くのはいつもと同じだった。
 だが、今回は以前とは違っていた。気を失うまでの快感ではなったのに、余韻にぼうっとしていると、段々と体が元の自分に戻っていったのだ。
 気を失うほどの快感を覚えなくても、元に戻れる。それは今までの様な果てのない不安ではなく、安心でもあった。
 しかし同時に漠然とした喪失感を感じたのも確かだった。
 弾力を失い硬くなっていく体。柔らかな快感を生み出してくれる乳房は、萎んで硬くて平らな胸板に変化した。キュンとなるような切ない子宮と卵巣は、まるでこの体に不要なものだとでも言わんばかりに下腹部から押し出されていく。全身の何処であっても、さする度にくすぐったかった皮膚の感覚も、鈍くなって行った。
 そしてその喪失感が自分の人生をも変えていくことに、その時の自分は気付いていなかった。

 あらゆる意味で、女の体の性に関して、無知だった。

 翌日、口紅とともに届けられたメッセージの通りに、メモリーカードを入れてネットにつないだ。
 すかさずメッセージが表示される。

     写真を見たよ。とてもカワイイ服だね。
     下着姿も最高だ。
     そんなキミに、ご褒美に名前をつけてあげよう。
     “ショコラ”それが君の新しい名前だ。

 “ショコラ”……。名前をつけて戴いた。

     さてショコラ、昨日は僕の言いつけ通りにイケたかな?

「はい」

 僕はそう答えながら口紅を塗り、女の姿へと変身する。
 そしてENTERキーを押して続きを表示させた。

     今日は奴隷初心者のキミに4つの課題を与える。

     1.昨日買った女の子の服を着て、アダルト本を売っているお店に行きなさい。

     2.そこで成人向けの雑誌を買うこと、できるだけイヤらしい本がいいね。

     3.もし大人のおもちゃも置いてあれば、必ずそれも買いなさい。何を買うのかはショコラに任せる。

     4.買い物を済ませたら、お店のトイレを借りなさい。そこでオナニーをすること。

     以上の4つがこなせたら、どんな風に課題をこなしたのか、詳しく報告しなさい。

     愛しているよ、カワイイ奴隷のショコラ。

     P.S.書店は チェーンになっている大き目のお店なら、襲われたりはしないよ。
        誘われるかもしれないけどね、フフフ……

 4つの課題をかろうじて済ませ、狼に追われる兎の様に、全速力で部屋に逃げ込んだ。
 息を乱しながら、黒のビニールのレジ袋から、買ってきたものを机の上に広げ、PCを立ち上げて報告書を書いた。

—-ご主人様へ
 課題は4つとも終えました。近所の“ブックセンターさとう”というチェーンの古書店のアダルトコーナーへ行きました。 平日の昼間だと言うのに、何人か男の人がいて、ジロジロ見られてとても恥かしかったです。
 目に付いた本を手に取りそれを買いました。表紙がご主人様のサイトにあったような、縄をかけられた女の子の写真で、『淫乱おしおき娘のおねだり』という本です。内容はSM風の写真集で、体験談も載っていました。
 アダルトコーナーだけは会計が別になっていて、店員には顔を見られずに買うことができましたが、後ろで本を選んでいた男のお客さんには、見られていると思うと、逃げ出したくなりました。
 お財布を取り出したところで、“アダルトグッズも買いなさい”というご主人様の指示を思い出し、レジの横にあったローターを買いました。
 アダルトコーナーのあるフロアにはトイレが無かったので、1Fにあるトイレを借りました。
 男女兼用の小さなトイレで、ドアを開けたら男の人がいて、すごくこわかったです。
 オナニーはしましたが、ドアをノックされる音に驚いて、少し漏らしてしまいました。
 トイレでよかったと思いました。
 声を出せなくて、イけなかったけど、とても興奮しながら、今これを書いています。

 お願いです、イかせてください! ご主人様。

 メールを送信し終わると、服を脱ぐのももどかしく、下着も剥ぎ取る様に脱ぎ捨てて、ベッドに潜りこんだ。
 メールを書いている内に、自分を慰めたくて仕方が無くなってしまった。けれど、どんなに自分を慰めてもやっぱりイクことはできなかった。
 ご主人様の許可が無ければいくことができないんだ。そう暗示されていたのかは、わからなかったけれど、そうだった。
 身を捩るたびに、毛布とシーツが敏感な素肌を苛む感覚に、自らを高めていた。
 性器をまさぐるたびに、強い刺激が全身を駆け抜けたけど、体力を消耗するだけだった。
 何時間そうしていたかは判らなかったけど、暗くなった部屋に明るく輝くPCのモニタ画面に、メールが届いていることを示すアイコンが点滅しているのを見つけた時には、ほっとした。

     4つともクリアするとは優秀な奴隷だね、ショコラ。
     SMの本を選ぶとは、ショコラはそういう風に、虐められたいのかな?
     しかし、ローターはもうひとつ持っていただろう? 
     忘れてしまうとは駄目な子だね。2つとも前の穴に入れなさい。
     1時間我慢できたら、イクことを許可する。

 言われたとおりに、ローターを膣に2つとも挿れ、スイッチを入れた。

「ひぅやあああぁぁっっ!」

 2つのローターが個別に不協和音を発しながら共鳴振動し、1つだけのときとは比べ物にならない刺激を伝えてきた。

「やぁっ! だめぇっぇぇっっっ!! こ、こんな」

 増幅され唸りを上げる2つのローターが、狭い肉壷をますますきゅっとさせるように、強い振動を伝えてくる。締めたからと言って、ローターの動きが抑えられるはずも無いのに……。
 そしてその反射的なカラダの反応が、さらに強烈にローターの動きを忠実に膣に伝え始めた。
 こんなの、5分だって耐えられない!
 だけどスイッチを切ってしまったら、ご主人様にもっとキツイ罰を与えられてしまうかもしれない。
 何度も気を失いそうになりながら、壁の時計を見つめ続けた。まるで全身がローターと一体になったかのように震え続けた。
 かろうじてつなぎとめていた意識で、時計の長針が一周したのを見届けると、頭の中でご主人様のメッセージテキストがフラッシュした。

     ”イクことを許可する。”

 その瞬間、ワタシは絶頂に達した。
 荒い息と女の汗の匂いでむせ返る毛布の中で、僕はまた、体が男に戻っていく喪失感を感じていた。

    愛する奴隷のショコラ、今日も4つの指示を与える。

     1.薬局へ行き、浣腸とコンドームを買いなさい。
       それとビー玉は持っているかな?
       無ければキミの家近くにある、ホームセンターのサニタリーコーナーにあるので購入しなさい。

     2.全裸になって、胸をくくりだすように縄で縛りなさい。乳首はクリップでつまむこと。
       
     3.自分で浣腸をし、コンドームにビー玉を詰めて後ろの穴に挿入しなさい。
       ビー玉は最低3個以上入れること。
       ああ、そうそう、ローターも2個入れなさい。

     4.前の穴には僕が送ったバイブを入れ、鏡を見ながらオナニーをすること。

       愛しているよ、カワイイ奴隷のショコラ

        *----*----*----*----*----*----*
 
     ショコラ、はじめてオシリの穴に異物を入れた感想はどうだったかな? 
     今日も4つの指示を与える。

     1.先日と同じアダルト書店に行き、SM雑誌を買いなさい。もちろん、女の子の姿で無いと駄目だよ。
       表紙は革のボンデージスーツを着た女性のものを選ぶこと。

     2.同じ書店でアナルバイブを買いなさい。

     3.ベッドの横に姿見を置いて自分のいやらしい体を隅々まで観察すること。

     4.自分の体の何処がエッチに見えるか、何処を攻められたら感じられると思うか、10箇所を書き出し、
       メールしなさい。

       愛しているよ、カワイイ奴隷のショコラ

        *----*----*----*----*----*----*

     ショコラ、僕の許可もなしにアナルバイブをお尻に挿れてしまうなんて、いけない子だね。
     これからはきちんと僕の言いつけを守らないと、いけないよ。
     だけど、エッチに感じる、責められたい場所を20箇所も書いてきたのはえらいね。
     ご褒美に今日も4つの指示を与える。

     1.昨日書き出してきた20箇所全部を口に出しながら、20回ずつ刺激しなさい。

     2.地図を見て、人がたくさんいそうな場所を20箇所書き出しなさい。
       そして20箇所全部を回れるように今日の行動計画を立てること。
       必ず電車やバスなどの公共機関を使うように。

     3.計画書ができたら裸になって、乳房をくくりだすように縄で縛ること。
       前と後ろのいやらしい穴にローターを挿れなさい。
       スイッチを切っては絶対にいけないよ。

     4.行動計画書をメールしなさい。
       メールを出したら、裸にコートだけを羽織り、行動計画のとおりに20箇所全てを回ること。
       時間が余っても夜の9時を過ぎるまで帰宅してはいけないよ。

        *----*----*----*----*----*----*

     僕の忠実な奴隷、ショコラへ
     今日も4つの課題を指示する…………

 ワタシは朝からご主人様に指示された4つの課題を、一日かけてこなしていた。
 今は本日最後、4つ目の課題をやっているところだった。

     4.キミはマンション住まいだったね。廊下の隅に僕の指示で買ったエロ本を全部置きなさい。
       そして全裸になり、目隠しをしたまま、一冊ずつ取りに行くこと。
       買った時のことを思い出しながらね。
       何時からはじめるか、時刻はキミにまかせるよ。
       でも夜中だと廊下には灯りが点いていないかい? 
       キミがいやらしく腰をくねらせながら廊下を歩く姿が、遠くからも見えてしまうかもしれないね。

 朝から自慰まがいのことを続けていたので髪は乱れ、女臭をぷんぷんと撒き散らしながら、深夜の廊下を往復していた。よく住人の誰かに発見されて通報、あるいはそのまま強姦されなかったものだと思う。終わりの方は半ば意識が朦朧としていて、注意力がおろそかになっていたのだから。
 やっと最後の一冊を回収して、ほっと一息ついていると、PCのスクリーンの隅でアイコンが点滅しているのに気がついた。
 ご主人様からのメールだ!
 過酷な淫戯をいくつも課せられながら、それでもご主人様からのメールに心が躍る。

     かわいい僕の忠実な奴隷、ショコラ。
     今日の課題は終わったかい?
     専用ブラウザで僕のサイトにアクセスし、チャットルームに入りなさい。
     何時までも待っているよ。

     キミのご主人様より

 チャットルーム!?
 回線越しとはいえ、初めてご主人様の“今”と繋がるんだ!
 ワタシはとっくに電池の切れたバイブレーターを抜くことも忘れて、サイトのチャットルームに入室した。

“ショコラ”さんが入室しました。(01:35)

ショコラ:ご主人様、まだ起きていらっしゃいますか?(01:36)
甘井:やぁ、ショコラ。課題はクリアできたかい?(01:40)

(“甘井“? ご主人様は甘井っていうんだ!)

ショコラ:はい、ご主人様。はじめまして(01:40)
甘井:こうして会話をするのは、初めてだね(01:41)
ショコラ:はい、今、とってもドキドキしています(01:41)
甘井:今日は何回イったんだね?(01:43)
ショコラ:20回? 25回……ぐらいでしょうか?(01:43)
甘井:何回イッたかも、判らなくなってしまうほど乱れたのかい?(01:44)
甘井:わるい子だね(01:44)
ショコラ:すみません、ご主人様。お赦しください(01:44)
甘井:いいんだよ、ショコラ。キミをそんなにイヤらしい娘にしてしまったのは、僕だからね(01:46)
ショコラ:ありがとうございます。ご主人様(01:46)
甘井:さて、今日はもう遅い。ショコラは今日の課題のご褒美がほしいかな? それとも、すっかりイヤらしい娘になってしまった、おしおきが欲しいかな?(01:48)
ショコラ:ご褒美が……欲しいです。(01:48)
甘井:よろしい。キミが何を望んでいるかわかっているよ(01:50)
ショコラ:はい……(01:50)

 しかし、次のご主人様からのメッセージはなかなかこなかった。

 (まだ? まだなの? ご主人様は何を下さるの?)

 焦れったさにキーボードの上の指が震え始め、もどかしさに身を捩ると、とっくに動くのをやめていたバイブが刺さったままだったことに気がついた。圧迫感が中途半端にGスポットを刺激していて、それが自分を焦らしているのだ。縄を緩めて抜こうか、そのままにしておこうか迷い始めた時、それは表示された。

甘井:イってもいいぞ。奴隷のショコラ(01:55)

 たったの15文字。30バイトの短いメッセージでワタシはイかされてしまった。
 無機質なシリコンの塊に、ご主人の意思が込められたかの様に錯覚を起こして、達してしまったのだった。

 僕はずっと待っていた。
 どうして、ご主人様は何も指示をしてくださらないんだろう。
 口紅だってくれない。一つ余計にあったはずなのに、いつの間にか使い果たしていた。
 女の子にだって戻れない。
 男の体の自分を、いくら慰めても、満たされない。
 胸が苦しいほど辛い3日間だった。
 いつ、宅配便の荷物が届くか、一歩も部屋を出ることができずにひたすら部屋で待ち続けていた。
 待ち疲れてうたた寝している間に、宅配便の不在通知が投函されていることに気がついた僕は、あわててドライバーの携帯番号にかけた。

「なんでもいいですから、今すぐ持ってきてくださいっ!!」

 電話口での僕の剣幕に驚いたのか、10分とたたないうちに再配達をしてくれた。
 ひったくるようにして荷物を受け取り、玄関をロックした。

 梱包を解くのももどかしく、箱を破いて開けると、いつもの口紅のセットが3つ出てきた。
 無我夢中でそのうちのひとつを開けて口紅を作り、唇に塗った。
 髪が伸びて乳房が膨らみ、腰周りがキュッとしまりながら、手足が細くなっていく。
 体が柔らかな脂肪の層に包まれていき、全身の皮膚が敏感になる。
 股間にあった邪魔なものが、下腹部に引き込まれていく感覚がして、最後にお腹の中に、今までは感じられなかった内臓が形成されたことを、確かに感じた。

 目を開けると、部屋の大きな姿見に、だぶだぶのシャツに短パン姿の少女が安堵の表情を浮かべて、こちらを見ていた。
 そうして、やっと平常心を取り戻したワタシは、乱暴にこじ開けられた小包をあらためた。
 中には口紅のセットが3つ(ひとつは今使ってしまった)と、データディスク、それに、メッセージカードが添えられていた。

     僕のかわいい忠実な奴隷、ショコラへ
     寂しかっただろう?
     運送のトラブルで、口紅を届けられなくてごめんね。
     お詫びに3日分の口紅と僕のメッセージの入ったディスクを送るよ。
     たっぷりと楽しんでくれたまえ。

     愛しているよ、ショコラ

 ご主人様からのメッセージディスク?
 ワタシははやる気持ちを抑えながら、PCにセットした。メディアプレーヤーが自動的に起ち上がり、ファイルを再生し始めた。

『愛する奴隷のショコラ、元気にしていたかい? 今日はキミのために、僕のメッセージを送ろう。きっとキミは悦んでくれると思うよ』

 これが、ご主人様の声?
 優しく語り掛けるように響く、低い声。聞き覚えがあるような語り口は、ワタシをうっとりとさせた。
 動画も静止画も無く、音声だけが収録しされているみたいだった。
 再生時間を見ると、経過時間1分、残り39分。

 それがワタシへの、40分間の調教の始まりだった。

『そう、ショコラは髪が長かったね。今はどんな髪型かな?』

 鏡を見ると、紺色のセミロングに伸びた髪は乱れたままだった。あわててブラシをとって髪を梳いた。

『服を全部脱いで見せてくれないか? そう、生まれたままの姿にね。ああ、キミは生まれたときは、女の子ではなかったんだっけ?』

 いいえ、今のワタシを見てください! 
 ブラシを放り出して、全裸になる。

『なんだ、もう濡れているのかい? 恥かしいところが光っているよ」

 だって、ご主人様のお声に、感じてしまったんですもの!

 ゆっくりと、まるで駄々をこねる子供をあやすような口調で、ご主人様のメッセージが流れてくる。内容は少しずつ過激になって行き、いつの間にか、ご主人様の言うとおりに自分を陵辱し始めていた。

『なんていやらしい子なんだろうね……』

『乳房はいきなり乱暴に揉んではダメだ。周りを撫でるようにそっと触れながら、少しずつ力を加えていくんだ』

『乳首ばかり刺激していてはいけないね。胸全体から快感を搾り出すんだ』

『ほら、下の方がお留守になっているよ。手は2本あるじゃないか』

『クリトリスを弄るのは、とてもわかりやすい快感だろう? でもそんなに強く何度もこすると、血が滲んでしまうよ』

『体の隅々まで、僕の舌で舐められることを想像してごらん。ほら、全身に快感が波のように伝わっていくだろう?』

『ショコラの膣をかき回しているのは、只のバイブじゃなくて、僕の分身だよ』

 ワタシは胸の動悸が激しくなり、快感に翻弄されながらも、ご主人様のメッセージどおりにカラダを官能の炎で熾し続けていた。
 むせ返るようなオンナの性臭が部屋に充満しはじめ、ベッドのシーツは、汗とぬるぬるとした性液でびっしょりになっていた。

『ショコラ、何度イけば気が済むんだい? あどけない顔して、なんて変態で貪欲な奴隷なんだ』

『ショコラは自分で自分を縄で縛ることができるんだっけ? いつか僕が縛ってあげよう。自分で縛るのとは違って、とても気持ち良くなれるはずだよ』

『ショコラ、僕がいいというまでイってはいけないよ。バイブの動きがどれほど頭の中に鮮明に浮き上がってきたとしても、我慢するんだ。』

『ショコラ、もうこの快感、忘れられないだろう? でももっと気持ち良くなれる筈だよ。僕の言うとおりにしていればね』

『ショコラ、まだイクのは我慢するんだ。キミの限界はもっと高いはずだよ』

『ショコラ、……………………………………』

『ショコラ、………………………………』

『ショコラ、…………………………』

『ショコラ、……………………』

『ショコラ、………………』

『ショコラ、…………』

『ショコラ、……』

『ショコラ、………..』

『ショ…ラ、… 』

『シ…………

          『 シ ョ コ ラ 、 イ ク こ と を 許 可 す る 』

 朦朧とした意識の中、ただひたすらに自慰に浸り続けていたワタシに、ご主人様の赦しの言葉だけは、頭にはっきりと響いた。

 あの、絶え間の無い快感の絶頂の連続地点を超えた先にある、光とオーロラが交錯し、白い霧が満たす天国。
 手、足、乳房、膣、アナル、全身を覆う皮膚。それらから伝えられる刺激に、脊髄と脳すらも快感と一体になって融けてゆく。
 ワタシはまたあの世界に到達し、そして深い闇に堕ちていった。

 気がつくと、時計はまだ昼の14時。全身が疲労の極致にあったにもかかわらず、ココロはとても穏やかだった。
 カラダは男に戻っていたけれど、不安は消え去り、深い満足感と満ち足りた幸福感が、昼下がりの陽光の射し込む部屋の中で光り輝いていた。

 お腹が空いていた。そういえば3日間、ほとんど何も食べていなかった。
 軽くシャワーを浴びて汗を流し、トランクスの上に洗いざらしのジーンズ、濃紺のTシャツを着て、財布の中身をチェックし、食事に出かける準備をした。
 部屋の姿見で、髪の乱れをチェックしようと覗き込んだところで考え直し、机の上の残り2つのうちのひとつ、あの口紅を作って唇に塗った。
 クローゼットから、ブラと小さなショーツ、花柄のワンピースを出して着替え、長い髪にドライヤーを当てて軽くブローをした。
 お財布を持って、ミュールを履いて、商店街の素敵なレストランで、初めての食事をした。
 誰もがワタシを振り返り、ひそひそ声で「あの子カワイイね」という声を聞きながら、ウィンドウショッピングを楽しんだ。

 今度はどんな服を買おうかな?

 女の子だもん、アクセサリーだって欲しいよね

 基礎化粧品って揃えるといくらぐらいかな。使い方も良く調べておかなくっちゃ。

 そうだ、外出のときに持つ小さなバッグもいるよね。カワイイのがいいな。

 生理用品、買うの恥かしいけど、きっと必要になるよね?

 避妊具もご主人様にお会いしたときのために、持っていなくちゃ。

 この前のブティック。前を通りかかったら、店長さんが声をかけてくれた。
 店長さんの声、ご主人様の声に良く似てる。
 ちょっとお話していたら、じゅんっ、てきちゃった。恥かしいからバレないうちに、帰らなくちゃ。
 ごめんなさい、今度また来ますね。

        *----*----*----*----*----*----*

 夕方になり、部屋に戻って暗くなりかけた部屋の電気を点けた。
 机の上にはネットにつなぎっぱなしのPC。メールは何も来ていないみたい。
 部屋に帰ってもワタシ一人。
 寂しいな。
 そうだ、ご主人様の声を聞こう。
 そうすればきっと寂しくないよね。

 開きっぱなしになっていた、メディアドライブのローディングスイッチを押す。
 ヒュィーンとディスクが回り始める音がする。
 メディアプレーヤーが自動的に起ち上がり、ファイルの再生が始まる。

     『……愛する奴隷のショコラ、元気にしていたかい? 
      今日はキミのために、僕のメッセージを送ろう。
      きっとキミは悦んでくれると思うよ…………』

        *----*----*----*----*----*----*

 気がつくと、また男のカラダに戻っていて、汗まみれになっていた。
 真っ暗な部屋には汗と女の体臭が漂っていた。
 床には花柄のワンピースと、白い女物の下着が脱ぎ散らかされていた。
 机の上には、あの口紅のセット。

 残りひとつ。

 躊躇いも無く封を切り、添付の油で赤い粉を溶いて唇に塗った。
 壁の時計の時刻は 20:34 。
 メディアドライブのトレーを指で押し込んで、ディスクを再生した。

 再生時間、残り40分………

     僕のかわいい奴隷のショコラ
     一日で3つとも使ってしまうなんて、なんて欲張りな奴隷だろう。
     ショコラ、それならば、僕も負けないように、キミのことをもっと良く知りたいな。

     キミが、どんな風に自分を辱めているのか見せて欲しい。
     今回は口紅と一緒に、webカメラを送ったよ。自分をどういう風に慰めているのか、僕に中継しなさい。
     楽しみにしているよ。

     キミの愛するご主人様より

 ワタシは送られてきたwebカメラをPCに接続し、ベッドのそばに寄せた。
 いつもの専用ブラウザを立ち上げると、新しくメニューの項目が増えていた。
 これで、ワタシの淫らな姿をリアルタイムで、ご主人様に見ていただけるんだ。

 ワタシは直ぐに全部脱いでしまうにもかかわらず、きれいに着飾った。
 あのブティックで買った白い下着を身に着け、花柄のワンピースを纏い、髪には丁寧にブラシを通した。
 お化粧はできないけれど、今のワタシが出来る精一杯の女の子の姿。

 ベッドの上に載り、ちょこんと正座をしてお辞儀をする。
 ご主人様にお見せする、ワタシの性のステージ。

 快感に我を忘れてしまうまでは、せめて可憐に、かわいらしく。
 期待に咽ぶ様に頬を赤く染めて、少しだらしなく足を広げる。ワンピースの裾がまくれあがって、下着が少しだけ覗く。背中のファスナーに手を回して腰まで下ろし、ちらっとカメラに視線を送ってから、ゆっくりとワンピースを脱いでいく。
大きくなった乳房をなるべく晒さないように手で押さえながら、ブラをはずしていく。カメラの向こうの見えないご主人様をちょっとにらんでから、両手をどけて目を閉じる。感じるはずのない視線に見つめられた胸の尖りが硬さを増して、早く自分もその視線に晒されたいと腰が震える。ワタシは中腰になって最後に残った一枚を両手でおろした。今すぐに脱いでしまわなければ、はしたない糸を引いてしまうところだった。

 でも恥じらう乙女を演じるのはもう限界。
 
 いつかのように全身を縄で亀甲の模様に縛り、前にはご主人様から戴いたバイブ。後ろの穴にはアダルト書店で買ったアナルバイブを挿れた。2つあるローターのひとつはクリトリスに、もうひとつは右の乳首にテープで貼り付けた。左の乳首はクリップで挟んだ。
 ベッドの脚に両足を閉じれないように結び付ける。身悶えたときに、恥ずかしいところが隠れてしまわないように。
 ご主人様には、いやらしい姿で身悶えるワタシを隅々まで見てもらわなきゃ。
 これは命令なんだもん。

 セットしたwebカメラを見ると、赤いLEDが点灯している。そう、今もこのカメラは、ワタシが自分で自分を辱める様子を、つぶさに捉えているんだ。ご主人様、見てくださっているかしら?

 ローターのスイッチを入れて、まずは右の乳首とクリトリスを刺激する。続いてバイブのスイッチ。前と後ろ同時にON。とたんに2本のシリコンの棒が、下腹部を内側から掻き回し始める。
 これはちょっときついかも。でも見ていただかなくっちゃ。ショコラはこんなにも、エッチなんです。
 両方の乳首とクリトリス、それに膣とアナル、肌に食い込む縄。全身を性器と化して、あらゆる箇所から送られてくる絶え間ない刺激に打ち震える。
 右の乳首のローターは、ジンとするような強い刺激と乳房全体をプルプルと震わせ、上半身に絶え間ない快感を呼び起こす。
 クリトリスのローターは、まるで小さな針で敏感な肉の芽をつつきまわすような鋭い刺激で、気が狂いそうになる。
 ご主人様から戴いた恐ろしげな形をしたバイブは、膣を内側からくねらせ、Gスポットを撫で、子宮を突く。不規則な動きのそのたびに、全身にいきわたる程の衝撃が走る。
 アダルト書店で買った大人のオモチャは、直腸をこねながら、アナルの入り口をこすり、切ないような苦しいような快感に心を蕩けさせる。
 全身にまわした縄は、ワタシを強く抱きしめるご主人様の代わり。
 唯一左の乳首に嵌めたクリップだけが、全身から絶え間なく送られてくる快感で我を忘れてしまわないように、鋭い痛みで官能の波を打ち返し、現実にかろうじて踏みとどまらせようとしていた。
 その快感が支配する性の浜辺に、一刻も早く浸りたいのをぐっと我慢して、PCのマウスに手を伸ばした。そして、ご主人様からのメッセージディスクからHDDにコピーしたファイルを再生する。
 既に性欲の渦に巻き込まれ、手が震えていたので、何度か失敗しながらも、メディアプレーヤーを連続再生モードにした。
 これで、何時までもご主人様の声を聞いていられる。

 だって、ご主人様のあの最後のセリフだけは、カットしておいたんだもん。

 何時間経ったのか、自分でもわからなかった。
 部屋のカーテンは引きっぱなしで、外の世界が昼なのか夜なのかわからなかった。
 外の世界? そんなのどうでもいいわ。

 ローターの電池もバイブの電池もとっくに切れていた。
 緩んでしまった縄も何度縛りなおしたか判らない。

 ワタシはいま、あの光とオーロラが輝く世界に来ていた。
 この世界にはシーツがぐっしょりと濡れたベッドとワタシ、それとご主人様の声だけ。

 ご主人様のお赦しが無いから、私は絶頂の頂点にとどまったまま。

 フツウの体ならば、これでイキ続けている状態なのだろうけど、私はさらにその先まで知っている。
 でも、そろそろ体力の限界かも?

 腕が疲れてしまって、電池の切れたバイブで膣とアナルを掻きまわすのも、張り詰めた乳首をつまむ指も、力が入らなくなってきちゃった。
 けれどご主人様の声が絶え間なく聞こえてくるから、それだけでワタシの全身には、ゾクゾクするような快感の波が絶え間なく寄せてくるの。

 このまま、死んじゃうかも?
 でもそんなこと、どうでも良かった。
 極上の世界に浸って、ご主人様の声に包まれて……
 気が遠くなる寸前の快感で埋め尽くされるなら、どうでもイイ……

 涙で潤んだ視界に、黒い男の人の影が表れたような気がした。
 男の人は、ワタシの頬に手を当てていった。

「こんな無茶をして……。キミは本当に優秀な奴隷だね」

 ご主人様? この人がご主人様なの?
 それとも極彩色の妄想が生んだ幻なのかしら?

「イってもいいぞ。奴隷のショコラ」

 そう言って、黒い影は私にキスをした。
 奈落の底に向かって、永遠に堕ち続けていくような落下の感覚に吸い込まれながら、ワタシの意識は消滅した。

        *----*----*----*----*----*----*

 気がついたとき、ワタシはベッドの上で毛布をかけられて横になっていた。
 カラダを戒めていた縄もまとめられてテーブルにおいてあった。その隣にはバイブレーターも置いてあった。
 あれは……あの黒い人影は、ご主人様だったに違いない。
 ワタシはベッドから起き上がった。

 でも、次の瞬間、僕はその現実に呆然とした。
 胸が無い。あんなに気持ちの良い快感を生み出してくれる乳房は、硬い平らな胸になっていた。
 毛布を跳ね上げて股間を確かめると、醜い肉の棒がだらしなく首を垂れていた。

 男に戻っていた。絶頂を超えて気絶したのだから、当然だった。
 だけど僕は、今までに無い深い喪失感と悲しみを感じていた。

 ふと机に目をやると、PCのディスプレイにメッセージが表示されていた。

     調教は終わり。卒業おめでとう。
     ディスクとHDDの音声ファイルは回収させてもらうよ。
     松本ゆうすけ君

 僕は、もう奴隷のショコラではなくなっていた。

 つまらない毎日だった。あの至福の時間に浸ることはもうできない。
 アドレスバーにサイトのURLを打ち込んでも、404エラーが表示される。
 あのサイトへアクセスすることも、あの口紅を手に入れることも、出来なくなってしまった。
 ご主人様からの、背徳的な命令も、もう聞くことが出来ない。

 他人の目を気にしながら、びくびくとした毎日を送る、つまらない男。
 でも、これが現実の自分なのだ。

 現実の自分? どっちが本当の自分だろう?

 むなしい男のオナニーでつまらない日常を過ごす自分。口紅を塗り、女の体になって、ご主人さまの言われるとおりに快感を貪り、絶頂を得ていた自分。どちらが本当の自分だというのだろうか?

 空しい日々を送る自分に、絶望さえ感じていた。

 そんなときだった。あの口紅が送られてきたのだ。
 そして封筒に入れられたメッセージカードの一枚目にはこう書かれていた。

     ショコラ、もう一度僕の奴隷になるかい? 
     でも、もう元に戻れないかもしれないよ。
     それでも良ければ、この口紅をつけなさい

 そして2枚目にはこう書かれていた。

     裸にコートだけを羽織って、夜の中央公園を散歩して、
     男に声をかけられたら公園のトイレに逃げ込んで、
     そこでオナニーしなさい

 ご主人様から与えられる快感の虜になっていたその時のワタシは、やっと掴んだご主人様の救いにすがりたくて一杯だった。
 だから、未だ見ぬご主人様に仕組まれた巧妙な罠に、気付く筈も無かった。

 夜の中央公園。ワタシはご主人様の指示通り、比較的安全と思われる入り口で所在無げに立っていた。
 ものの10分もかからなかった。若い男の誘う言葉が終わらないうちに、ワタシは全速力で走って逃げた。

 もし捕まったら?

 その恐怖が体を震えさせ、震えるカラダがそれを快感と間違え始める頃には、なんとか公園の奥にあるトイレに駆け込めた。
 もし今のワタシが、犯される恐怖よりも、性的に虐められる快感に身を任せようとする気持ちが勝ってしまっていたなら、ワタシの逃げ足は鈍っていたかもしれない。
 もしそんなことになっていたら……。

 そして男性用の個室に入り、カギを確かめた。
 あがった息を静める間も惜しんで、見知らぬ誰かに犯される自分を想像しながらオナニーを始めた。
 そういうご主人様の命令だったのだから。
 けれど3回目にイッた後に、誰かの気配がすることに気が付いた。

「あれ、この匂い、女でもいるのか?」

 男の声がワタシの霞み掛けた意識を現実に引き戻した。男性用のトイレなのだから、男の声がしても当然だ。
 急に不安になって、身づくろいをしようと体を見ると、汗まみれになっている自分に気が付いた。
 そうか、ワタシの淫臭がこの狭いトイレに立ち込めていても、不思議じゃない。

「まさか、男子便所にわざわざ? お、確かに大の方、ひとつ埋まっているな」
「誰かー入っていますかー?」

 笑いながら男がドアをノックする。
 まずい、見つかったら犯されるかもしれない。
 そうは思ったものの、自然に手が股間をまさぐっていた。
 何しろ男に犯されることを想像しながら、何度もイッていたんだから。
 もしこのドアを開けたら……。
 想像が現実になる恐怖と期待に、いけないと思いつつも、自慰を続ける手が止められなかった。

「あふぅんっ!」

 思わず、声が漏れてしまった。

「おい、女の声だぜ!やっぱり本当にいるんだ」
「もしもーし、手伝ってあげましょうか?」

 そして下卑た笑いが響く。

「おい、順番な。俺が先」
「何言ってるんだ、女には入れる場所が二つあるだろう?」
「おお、そうか! だが正確には3つだ。もう一人呼んでも大丈夫じゃないのか?」
「ああ、そうだな。ははは」

 ワタシは陰茎を口に頬張らせ、四つん這いになって前と後ろの穴を同時に犯されることを想像しながら、絶頂への階段を昇り続けていた。

「はぁっ、はぁっ! ああっ!」

 もう嬌声が漏れる事も、お構いなしだった。
 乱暴にドアがこじ開けられるのと、気を失うのは同時だった。

 気が付くと、僕は公園のベンチに横になっていた。黒いぴったりとしたワンピースを着た女の人に介抱されていた。

「気がついた? やっと男に戻れたようね」

 見ると、ぼくの体は男に戻っていた。
 気を失うほど気持ち良くなったんだから当然だけど、目の前の女性は、どうしてそのことを知っているんだろう? 
 もしかして……。

「あ、あなたが甘井……ご主人さま?」
「いいえ、私はアールグレイ。ブティックで会って以来ね」

 アールグレイと名乗った女性は、持っていた水筒の中の紅茶を、僕に勧めながら言った。
 そうだ、確かに見覚えがある。

「アールグレイ?」
「お菓子を食べるには、お茶がつき物よ。私は甘井……あなたのご主人様の使いよ」
「それじゃ! あの店長という人が?」
「そう。あの人が、あなたのご主人様」

 そう、とっくに僕のことを知っていたんだ……。

「そうだ! ぼ、僕はあのあと……。」

 気を失った僕はあの男たちに、どうされていたんだろう? それを聞くのは怖かった。
 だけど、女性は僕の意図を理解したらしく、小さな機械を口に当てながら言った。

「『ずいぶんと興奮していたな?』『気持ち良くイケただろう?』」

 あの男たちの声は、ボイスチャンジャーで作っていたのか!

「さて、どうする?」
「ど、どうするって?」
「私があなたを介抱する為だけに、ここへ来たと思う?」
「僕を連れて行ってくれるんですか? ご主人様のところへ」
「行けば、もう戻れなくなるかもしれないわ。私のように。でも引き返すことも出来る。どうする?」
「…………あなたも、もしかして僕のように?」
「男だった。でももう戻れない。あなたは、どうするの?」

 寂しそうにふっと笑い、逆に僕に尋ねた。
 迷っていた。もしこの女性についていったら、ずっと?

「でも僕はもう、男には……。こんなこと、体に教えられてしまって、もう男の生活には戻れないよ」

 男の体で、男のオナニーには戻れない。
 もう女の体でなければイけないだろう。
 あの快感を覚えてしまったら……、もう戻れっこない。

「あなた、童貞君でしょ?」

 そういえばそうだった。すっかり忘れていたけど。

「じゃあ、もう一つ選択肢をあげるわ。女を知れば、また男の生活に戻ることが、出来るかもしれないわよ」

 僕は目の前の女性に導かれるように、セックスをした。でも想像していたほど、気持ちよくは無かった。童貞喪失の感動は何一つなかった。それよりも目の前の女性はなんて気持ちよさそうだったんだろう? 
 股間から垂れた僕の精液を指で拭い取り、それをおいしそうに舐め取ると、うっとりとした表情になった。
 あれ、そんなにおいしいものだったのか? 一度でいいから、試しておけばよかった。

 でもずるい。 僕だってあんなふうに気持ちよくなりたい……。

 女の喘ぐ様子が演技だったことも、僕がそれほど気持ちよくなかったのも、仕組まれていたことだったなんて、その時の僕にはわかる筈もなかった。
 選択などではなく、罠だったのだ。女と、あの水筒の中の紅茶に仕組まれた……。
 僕を後押しするための、巧妙な罠。
 だけど、それはずっと後になってから知ったことで、その時の僕は強い思いに囚われていた。

 もっと強い、もっと凄い、もっと激しいエッチなことがしたい。そのためには……。

「あ、あの。僕はどうしても……」
「わかったわ」

 そう言って、公園のトイレに僕を連れ込むと、バッグから例の粉末と油を取り出して口紅を作り、僕に塗った。
 たちまち僕は女の子になった。バッグの中から革で出来たボンデージスーツを出して、ワタシに着せた。

「もし、イかされて気を失ってしまったら、大変だからね」

 そういうと脚を大きく開かせられ、貞操帯の様なものを付けてロックされた。むき出しの乳房の先は痛いほどにとがっていた。その上に、ケープの付いたコートだけを羽織らされ、女に連れられて外に出た。
 公園から程近い駅に行き、電車に乗った。帰宅ラッシュのせいか、電車は混んでいた。

「この電車、痴漢が出るのよ。あなたも気をつけなさい。でも声を出したり抵抗したりしないで。あなたの素性がばれると厄介だから」

 ち、痴漢? ワタシが? それで、万が一のために貞操帯をつけたって言うんだろうか?

 程なく、女とは微妙に離れてしまい、僕はドアのガラスに押し付けられるように立っていた。

 その時だった。お尻を撫でられたのは。

 声を出すことも、抵抗することも出来ないワタシは、エスカレートしていく男の手の動きになす術もなかった。
 ケープの隙間から拘束具に絞りだされた乳房を直接揉むことができると知った男の行為は、さらにエスカレートして行った。
 乳房への刺激は容赦なく、乳首をくりくりとこね回す指使いは、めまいがするほどに気持ちがよかった。そしてその快感は、確実に僕を絶頂へと導いた。何度も何度も。

(ど、どうして? どうしてこの男は胸だけでワタシのことをイカせることができるんだろう? まるで、ワタシの体を知り尽くしているみたいに……)

 既に、背後の痴漢に体を支えられなければ、立っていることすらできない状態になっていた。
 そして、支えられていても膝が砕けそうになったワタシを支えながら、男が言った。

「ずいぶん開発されているね。キミの体は。胸だけで何度いったんだね」

 聞き覚えのある声……これはあの声だ! 口紅とともに送られてくるあの音声ファイルの指示の声。
 ご主人様?
 そして朦朧とした頭で思い出す。ああ、そうだ。この胸の刺激の仕方は、あのアンケートにどうやって胸でいったのかを答えた、あの刺激の仕方を正確になぞっているんだ。
 内股をつつーっと愛液が伝い、履いていたミュールにまでたれていた。きっと下も、もうぐちょぐちょになっているに、違いない。ワタシは期待を込めて背後の痴漢に腰を押し付けた。

「おや、おねだりかい? はしたない娘だね」

 着せられていたコートのポケットには内袋がついて無かった。その時点でこれが調教の一環であると、気付いていてもよかったけど、ワタシの頭はもうそれどころじゃなかった。
 拘束具の隙間から愛液がフトモモを伝うのが自分でもわかっていた。鍵が無ければ開けることができないはずの貞操帯を、男はあっさりと外して、指を膣に侵入させてきた。リズミカルにいやらしくうごめく五本の指に、ワタシの女性器はぐちょぐちょにかき回され、完全に揉み解されてしまっていた。
 ドアのガラスには溶け切った少女の顔と、その肩越しに見覚えの在る甘いマスクの背の高い男性の顔があった。あのブティックの店長。
 ワタシの視線に気が付いた、その人は耳元でささやいた。

「キミはとってもかわいいね。僕の本当の奴隷にしてあげよう」

 “本当の奴隷”その言葉が何を意味するのか、朦朧とした意識が理解するまもなく、男がワタシを貫いた。
 いつのまにか脇に立っていた黒衣服の女性に、口元をハンカチで押さえられていた。
 その段になって、ようやくこれは最初から仕組まれたことなのじゃないかと思ったが、もう手遅れだった。
 暖かい、明らかに人のカラダの一部で、後ろ向きのまま処女を貫かれていた。
 ハンカチで押さえられた口から、悲鳴が漏れることは防がれたが、肉棒に押しのけられ、膣からあふれ出た愛液は太ももを伝って、履いているヒールにまで届いていた。
 あまりに突然だったため、何の抵抗も無くほとんど全てを飲み込んだが、胎内への異物の侵入に、やがて体が反応しはじめた。
 “処女喪失”、初めて男を受け入れる現実に、全身が強張っていた。

「男を受け入れてからでは、そんな抵抗は無駄だよ。もっと力を抜きたまえ」

 優しく頭をなでられ、後ろから強く抱きしめられた。
 同時にものすごい快感を得たワタシは、自分に欠けていた、望んでいたものが膣を満たしていく感動に打ち震えていた。
 熱くたぎる太くて逞しい硬い肉の棒が、体の奥深くにある器官の存在をはっきりと意識できるほどに、ワタシを深く深く刺し貫いていた。

「んむ、むふぅっ……!」

 ハンカチから声が漏れる。もう自力で立っていることすらままならなかった。
 両手が乱暴に私の胸をつかみ、乳首は痛いほどに張り詰めていた。
 やがて電車の揺れに呼応するように激しく突かれ、揉みしだかれ……ワタシは気を失った。

 目が覚めると、僕はソファに寝かされていた。
 裸でも、拘束具でもない、ひらひらのついた女の子の服を着せられていた。だが、体は男に戻っていた。
 辺りを見回すと、部屋の壁に立てかけられていた大きな鏡に僕の姿が映る。女の子の服を着た、男の僕。
 なんて違和感があるんだろう。
 こんなの本当のワタシじゃない……。

「気が付いたかい?」

 逆光でわからなったが、大きな背もたれの付いた椅子には人が座っていたようだった。

「……ここは?」
「ここは私の工房だよ。おかしをつくる、ね」

 シルエットになって顔が良く見えないが、昨日電車の中で僕を犯したのは、間違いなくこの男だと思った。

「あなたは店長……いえ、貴方が“ご主人様”なんですね」

 男はその問いには答えず、椅子から立ち上がると僕のそばに近寄り、スーツのポケットから一本の短い棒を取り出してみせた。

「さて、ここには口紅がある。でもこの口紅は今までキミに送っていた物とは違う。これを塗るともう男には戻れない。
キミは私のかわいい”おかし”、つまり奴隷になるんだ。どうするかね?」

 僕は一瞬躊躇ったが、答えはもう既に出ていた。

「塗ってください」

 目を閉じて唇を突き出すと、足音がして人の近づく気配を感じた。
 頤に指を添えられて上を向かされ、唇に何かを塗られる感触がした。
 とたんに唇が熱くなり、それが全身へと広がっていった。

 目を開けると、昨日の男性が立っていた。やっぱりこの方がワタシの、ご主人様……。
 ご主人様は私の手を取り、部屋の鏡の前に立たせた。
 スーツを来た背の高い男性の隣には、艶かしいドレスを身に纏い、恥ずかしそうに顔を赤らめた少女が映っていた。そうだ、こんな服に似合うのは、こんなワタシなんだ。
 縁を白のフリルで飾られた濃紺の服。ヘッドドレスを付けられた姿は主人に仕えるメイドを思わせる。髪はツインテールに結ばれ、胸元と同じ赤いリボンで飾られていて、それがとても良いアクセントになっていた。ノースリーブの服は肩がむき出しになっていて、上半身の体のラインを強調するデザインだった。それにドレスの前は、クロスする赤い紐があしらわれていて、縄で自縛したあの時の、はしたない姿を連想させた。ふわりと広がったスカートは短めで、膝上までの黒のストッキングを履かされていた。黒のローファーだけは普通のデザインだったけれど、細い足首には銀色の太いリングのついた幅の広い皮製のアンクレット……いえ、足枷が着けられていた。そして下着は、イヤらしい液がストッキングにまで滴るほど、びしょびしょになっていた。
 それを意識したとたん、これから起こるであろう出来事への期待感でカラダが震えた。ドレスの胸の膨らみの先には乳首が浮き出ていて、細く絞られた腰まわりの奥底がキュンとなる。
 愛液が溢れて太腿を伝い始めているのを、ワタシはいつまで我慢できるのかしら?
 こんなにはしたないワタシを、ご主人様はどんな風に苛めてくださるかしら?

 私は肩越しにご主人様を振り仰いだ。ご主人様はとても満足そうに頷いた。
 終わりの無い至福の時間が、今始まる。

 「僕たちのおかし製作所へようこそ。かわいい奴隷ちゃん」

(おわり)

小説

Posted by amulai002