【再掲投稿小説】不思議な村 作 黒糖鈴カステラ 絵 螺子-K

小説

DATE: 12/02/2018 19:14:51

作 黒糖鈴カステラ https://twitter.com/ring_cas_teller
絵 螺子-K https://twitter.com/_Neji_K

<1>
そこは不思議な村だった。美少女ばかり目につくのだ。
男性はおろか、お年を召した老婆も、母と同年代となる中高年の女性も、常にそこらじゅうを走り回るような幼 女も見当たらない。住民はみな第二次性徴期を迎えた10代、もしくは妖艶な雰囲気にあどけなさが混じる20代前半の女性のみ。しかもその全員が皆一目惚れしてしまいそうな絶世の容姿と雰囲気を持っていた。

オレがその村の噂を聞いたのは3日前。立ち寄った酒場での噂話。この先の山奥にある村へ向かった者、そして彼らを捜索しに行った者がもう何ヵ月も戻らないと言う。それ以上の情報がないため、危険な野生動物の仕業だとか、村への道のりが遠く険しいからだとか、未だその原因すらわかっていない状態だった。よし、だったらオレが行って確かめてやろう。そして謎を明らかにしてみせる。好奇心をかきたてられ、オレは翌日から一人その村へと旅立った。身構えていたものの道中に目立った障害もなく、丸2日かけて森の奥深くや山々を歩き回った末に、噂の村へと辿りついた。そこは周りが全て山と森に囲まれた隠れ里。一見、何の変哲もない村。だが、話は冒頭の下りまで戻る。美少女しかいない。しかもその全員が今まで見たこともないほどの見目麗しい美人揃い。男ならば誰もが夢見るハーレム状態。自分1人と美少女だけで作られた夢の理想郷。なるほど、確かにこれは帰りたくなくなるような…。
「あの…」
ふと、後ろから鈴の音のような可憐な声がした。10代後半だろうか。クセ毛のない、まっすぐで長い茶髪を三つ編みにした美少女。なんとも魅力的な彼女がオレの袖をちょいちょいと引っ張りながら、上目遣いでこちらを見ていた。その整った顔立ち、つぶらな瞳、かわいらしい仕草に胸が高鳴ってくる。
「あの…旅のお方でしょうか。」
「えっ、あっ、そうなんだ。えっと、それで…」
何でもない会話のはずなのにしどろもどろになってしまう。何とか場をもたせようと必死に話題を探す。頭の中をひっかき回していたそのとき、
「悪いことは言いません。早くこの村から出て行ってください。」
少し背伸びしての耳打ち。ときめくような出来事だったが、その台詞はなんともほろ苦い。だが実を言うと、この村でこの台詞を聞くのは初めてではなかった。
美少女たちは、オレにすぐにこの村から出ていくように警告する。
オレを見た村の子たちは皆そうしてきた。しかしそれは男であるオレを異物として追い出そうとするものではなかった。オレの身を案じての警告。この村で起こる何かから逃げてほしいという願い、懇願。彼女たちの真剣な眼差しや声のトーンからその意味合いと深刻さが伝わってきた。
「なぁ、キミ以外にも言われたけど…なんで出ていかなくちゃいけないんだ?も、もしかして、男は見つかり次第殺されるとか…」
「殺されはしないです!ですが……………。」
彼女はオレの問いに言い淀んだ後、視線を落とした。そしてしばらくしてから、何かを決心したような顔で話し始めた。
「………ですが、大変なことになるんです。男の人が見つかったら、おん「ヒャハ♪み~っけ♪」
「っ!!」
不意に彼女の言葉を遮り、オレの後ろから声変わりのしていない少年の声が聞こえた。彼女の顔からみるみる血の気が引いていく。まるで殺人鬼と目が合ったようなおびえ切った表情。その異常さが何も知らないオレまでも緊張させる。意を決して振り返ろうとしたそのとき、突然辺りが眩い光に包まれた。オレはとっさに目を瞑ったが、そこで意識が途切れてしまった。

再び目を開けたとき、そこは元いた道端ではなかった。50人ほどは収容できそうな大広間。劇場のような作りのその部屋は天井が高く、音や声が反響しやすくなっていた。
「うおぁ!!あっ!アンタ!」
振り向くと、そこには一人の青年が立っていた。この村では全く見かけなかった、男性。中肉中背のサファリハット。その顔は隣町にある、村の噂を聞いた酒場で見たことがあった。おそらく彼も怖いもの見たさに導かれ、この村へと来たのだろう。
「アンタ今どっから来たんだ!?さっきまでいなかったよな!?」
「あ、あぁ…ついさっきまで外にいたんだが、なんか少年の声がして…」
「アンタもか!?俺もなんだよ!!あの村ですっげぇかわいい女の子と話してて、なんか光ったと思ったらこの部屋にいたんだ!」
オレの体験した現象と全く同じだった。どうやらこの青年もオレと同じようにしてこの部屋に来たらしい。
「ヒャハハハハハ!!」
不意に響く、声変わりのしていない少年の高笑い。耳障りなその笑いは部屋中に反響し、輪唱のように響き渡った。声の主は部屋の中央に置かれた豪華な椅子で満足げにニヤついていた。
「ようこそボクの理想郷へ。歓迎するよ~、お二人さんっ♪」
マントを羽織り、どこか貴族を思わせる整った身なりに丸い眼鏡。まるで自らを天才と自称しつつ他人を卑下しているような、そんな可愛げのないガキだった。
「やい!オメェだな、こんなとこ連れてきたの!とっととあの村に帰しやがれ!」
「そ~んなに慌てないで。ちょっとしたらまた戻したげるからさ~」
少年はまぁまぁ、というジェスチャーで青年を宥める。その顔には絶対的な自信と余裕があった。
「ここに向かった旅人たちがみんな行方不明になってるんだ。何か知らないか?」
「うん。もちろん知ってるよ。だってみ~んなこの村で暮らしてるからねぇ♪」
「何?」
辻褄が合わない。とくに道が整備されていない上に野盗や野生動物の被害も後を絶たないこの時代、旅に出るのは決まって皆屈強な男たち。今まで女の旅人なんて見たこともなかった。
「男なんて一人もいなかったじゃねぇか。」
「そうだよ。ここは美少女たちとボクだけで構成されたボクの理想郷だもの。い・ま、この村にいる男はボクと兄ちゃんたちだけだよ。」
少年はわざとらしく強調した。何かの謎かけだろうか。
「…なぁ、あんまり大人をからかうもんじゃねぇぜぇ、ボク?」
しびれを切らした青年がコキコキと指を鳴らしながら少年に近づく。だが少年は顔色ひとつ変えない。
「別にからかってなんかないけど?ヒヒッ♪兄ちゃんあったま固いなぁ~♪」
「んだとこのガキぃ!!」
青年の鉄拳が少年の顔に直撃…する寸前で止まった。少年がニタニタとにやける。
「おい!どうした!」
「体が…動かねえ…!」
青年が力を込めるもその体は微動だにしない。殴りに行った姿勢のまま、まるでその空間に糸で縫いつけられたように動かない。
「この村はねぇ、僕の理想郷であり、兄ちゃんたち旅人を捕える罠なのさ。兄ちゃんたちはもう罠にかかったウサギちゃんなんだよ。」
「罠だと…!」
「そ。誰一人帰ってこない謎の村。普通そんな危ないとこ誰も行かない。兄ちゃんたちみたいに若気の至りを拗らせちゃったおバカさんたち以外はね♪」
ぐうの音も出ない。
「ボクはそんな人たちがもう無茶できないようにしてあげてるのさ。いい子でしょ~♪」
「何がいい子だ!!とっととこれ解きやがれ!!」
「ヒヒッ♪じゃ~そろそろ種明かしといこうか~♪」
「人の話を聞けぇ!!」
「ボクの楽しみは3つあるんだ。ボクの楽しみその1~、見目麗しい美少女だけで作られたこの理想郷を堪能すること~。」
悔しいが少しうらやましい。
「ボクの楽しみその2~、」
「ぐっ!!!」
青年が突然苦悶の表情を浮かべる。そしてなんと体が浮かび上がり、宙吊りになった。彼を釣り上げる糸も紐もない。得体の知れない謎の力、超能力で空中に持ち上げられる。
「く…あ………あぁぁぁぁ!!」
硬直が解かれた手で胸部を押さえ、苦しみ出す。痛みを紛らわそうと足もジタバタさせるが、どれだけ暴れても足は地面につかない。被っていたサファリハットがふわりと落ちた。まさか遅効性の毒でも盛られた!?
「おいお前!彼に何をした!!」
「まぁそこで見てなよ。」
少年の目は爛々と輝いていた。ふと、もがき続ける青年の体をピンク色のもやが包み出した。
「あああああ!!」
叫びが一層大きくなる。そして、目の前であり得ないことが起こり始めた。青年の胸を押さえている手が、腕が次第に細く、華奢になり始めたのだ。肩幅もそれに伴って狭くなり、服に弛みが生まれる。そして、押さえていた胸部が腕の下から風船のように膨らみ出した。
「うっ!あっ!あぁあぁあぁ!!」
痛む箇所が変わったのか、彼が頭を抱えて大きく仰け反った。その光景にオレは目を疑った。拘束を解かれた彼の胸が大きな膨らみを作り、服の下で魅惑的に震えた。それは決して男性には実りえないたわわな果実。その果実が肩幅の収縮によって生まれた服の弛みを集め、ふっくらとその存在を強調した。変化は尚も続く。短く切り揃えられていた髪が根元から金色に染まり、指の間から溢れだした。その流れは腰まで続き、ある程度の本数毎に螺旋状の形で結わえられた後、一斉に解放された。螺旋の形状をかすかに残した金糸は、柔らかな印象を漂わせつつふわりと降り立った。精悍な顔立ちも無精ひげとともに消え去り、きめ細かく、繊細で艶やかなものに置き換わった。叫び声も野太い野郎のものから、男性の心をときめかせる、つややかで張りのある高音へと変わっていった。
「ヒャハ♪もうわかったよね。この兄ちゃんに何が起きてるか♪」
彼に何が起きているのか。途中で気づきはしたが、あまりにも超常的すぎてそうでないと信じていたかった。だが、もはや事は明確である。
「ボクの楽しみその2~♪」
彼は女体化させられている。少年の手によって、強制的に!
「あああああああああああああ!!!」
高音になって、より響きやすくなった彼の、彼女の音色は部屋中を反響して中央へ届けられる。ただ一つ用意された特等席で、少年はその変化と旋律に酔いしれていた。
「あぁ…いぃ…いぃねぇこの響き。成す術なく変えられてく悲鳴と、変身という未知の快楽に悶える喘ぎ!ヒャハ♪何度聞いてもたまらないねぇ~… 」
普通じゃない。こいつは普通じゃない。もっとも、こんな力を持っている時点で既に普通じゃないが…。だが、この超能力への恐怖と同じくらい、さっきの少年の言葉が引っかかった。
「何度、聞いても…!?」
頭によぎった推測が可能性と恐怖を引き連れて迫ってくる。
「何度もって、おい…まさか…そんな……この村って…!」
「ヒャハ♪そうさ。元々ここに住んでた奴も訪ねてきた奴もみ~んなボクが女の子に変えたげたのさ。こんなふうにねぇ♪」
「やぁあぁあぁあぁあぁ!!」
高らかに彼女の美声が響き渡る。ウソだ…なんということだ。
やがてオレは、この町が一人の少年に支配されていることに気付く。少年は村人たちすべてを美少女に変えて支配していたのだ。
たった今、目の前で行われている悪魔の所業。これこそがあの美少女たち、もといこの少年の犠牲者たちが危惧していた事態だった。だが今更気づいてももう遅い。彼女の変化は止まらない。数多の道なき道を踏破してきた逞しい下半身はしなやかに姿を変えてゆき、ブーツは転げ、ズボンは腰からすべり落ちた。そのズボンは今、代わりにふっくら膨らんだ尻と、最後の最後に残された彼のものによって支えられていた。
「ヒャハ♪じゃあそろそろフィナーレ、行ってみようかぁ!!」
「っ!! いやぁあぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!!」
少年の合図とともに、彼女は股間を押さえこんだ。その叫びは悲鳴というよりも悦びの入り混じった喘ぎ声だった。程なくして絶頂を迎えた彼女は股間に大きな染みを作り出していく。その下ではもうすでに彼のものは彼女のものへと変貌し、そびえ立っていた山は綺麗さっぱりなくなっていた。喘ぎとともに、乱れた吐息と猫なで声が漏れる。全ての体力を使い切った彼女は、息が整うとそのままぐったりとこうべを垂れ、クゥ…クゥ…と寝息を立て始めた。彼女の変化はそこで止まった。
「ヒャハハハハハッ!!ブラボーーー!!!」
オレは、恐怖した。

<2>
やがてオレは、この町が一人の少年に支配されていることに気付く。少年は村人たちすべてを美少女に変えて支配していたのだ。
向かった者が誰一人帰ってこない村。少年はそこを訪ねた旅人をその力で変化させ、目の前の男性が女性へと変えられてゆく過程を楽しんでいた。そしてその彼に変えられてしまった美少女たちが住まう村。それがこの村、美少女だけが住む理想郷の正体だった。

拍手の音が大広間の中でこだまし、響いていた。もちろんそれはただ一人の観客にして支配人である少年によるものだった。彼の手にかかった青年は元の姿とはかけ離れた、見目麗しい美少女へと生まれ変わっていた。身長も肩幅も縮み、かつてピッタリだった衣服は代わりに膨れあがった胸と臀部にかろうじて引っかかっていた。
「さ~て、」
拍手をやめ、少年は椅子から立ち上がった。オレは身構えた。特に身構えたところで何ができるわけでもないのだが。
「ヒャハハ♪そう焦らないの。あとでもっとじっくりと料理してあげるからさ。それより先に、彼女の"締め"をしてあげなきゃ。」
そう言って少年は元青年の方へと向き直る。これ以上何かされてしまうのか。自分に彼女と同じ結末が待っていると思うと、もう見ていられなかった。しかし、少年の謎の力、超能力によって体を硬直させられる。彼女から視線をそらすことができない。まるで今から起きることを目に焼き付けろと言わんばかりに。少年はしたり顔をこちらに向けた後、右手を彼女の方へ向け、瞑想を始めた。しばらくすると、彼女の衣服がピンク色に光りだした。そして胸元の部分からしゅるしゅるとリボンのような形状に姿を変え、周りをぐるぐると彼女を包み込むように回り始めた。衣服が全てその形状へと変化すると、一糸まとわぬ美少女の裸体をリボンがところどころ隠すという扇情的な光景が目の前に広がった。以前の自分ならば、この光景に興奮していたに違いない。しかし、今はとてもそんな気分にはなれなかった。しばらくするとリボンがその軌道を変え、再び彼女を包み始めた。それはやさしく、柔らかく、それでいて包帯のように隙間なく彼女の体を包み込んでゆく。
「へ~んしん♪」
少年の声を合図にリボンがまばゆく光輝いた。目を開けると、そこには深窓の令嬢がすまし顔で浮かんでいた。彼女を包んでいたリボンは落ち着いた色合いの翠のワンピースとなり、彼女に清楚でおしとやかな印象を与えた。肩は控えめに膨らんだパフスリーブに包まれ、そこから長い袖が末広がりに伸びていた。袖口にはフリルがあしらわれ、そこから白魚のような指を覗かせていた。胸元は大胆にカットされていたがその下に着せられた肌着が首筋まで覆い、繊細に生まれ変わった肌を守っていた。胸の膨らみはきつめに絞められたコルセットによって強調され、開け広げになっていたときよりも扇情的に見えた。スカート部分はコルセットの下からくるぶしにかけて装飾をまとい、その下に履かされたパニエによって柔らかく広げられている。その中から現れたしなやかな足には純白のパンプスが履かされていた。かき乱されていた金髪はしなやかに解きほぐされた後、再び優雅な螺旋を形作っていた。ほんのりと化粧を施された顔に、もう彼の面影はない。女性的な衣装に包まれ、彼女は真に女性として生まれ変わってしまったのだった。
「へぇ~、またずいぶんとかわいらしく変身しちゃったねぇ。ヒャハ♪こういうのが好みだったんだ~」
少年は自ら空中に浮きあがり、彼女の周りを回りつつ全身を嘗めまわすように観察した。それはまるで芸術家が作品を鑑賞するような、美術的興味と充実感に満ちあふれた顔だった。
「好み…だと…?」
「うん。そうさぁ~」
少年はオレのところまで飛んできてスタッと着地した。そして自分に視線を向けさせるためにオレの首から上だけ拘束を解除する。
「ボクはねぇ、別に兄ちゃんたちをボク好みの姿に変えてるんじゃないんだ。」
人差し指をたてて、オレの周りをうろうろしながら語り始めた。
「ボクは兄ちゃんたちの頭の中から自分の理想とする女性像を引き出し、その姿へと変えてあげてるのさ。」
「理想とする…女性像…!?」
「そう!この兄ちゃんの体つきや服を決めたのはボクじゃない。兄ちゃん自身さ。兄ちゃんが一目惚れして、結婚して、人生投げ打ってでも守りたいって思える理想の女性像。それがこの"姉ちゃん"なのさ!」
鼻息を荒げ、褒めろとでも言いたげだ。なるほど、村の住民が皆美しい理由がわかった。彼女たちは全員、自らが想う理想の女性へと変身させられていたのだ。くそ…何てことを…!自らがその女性像へとなってしまったら、もしその女性と出会っても添い遂げることもできないじゃないか!オレの中で沸々と怒りがこみ上げてくる。
「どうだい兄ちゃん。この村のこと、これからされることがわかったわけだけど、どう?」
許せなかった。私利私欲で人生を、理想の女性と出会える機会を奪う目の前の存在が許せなかった。
「…へぇ、珍しい。大体は見逃してくれって命乞いしてくるのに。あ、むしろ早くやってくれって頼んできたのもいたっけなぁ。ヒャッハハハハハ!!」
下衆め。
「オレはお前に姿を変えられても、絶対屈しないからな!!」
宣戦布告。それはしばし部屋に響き、やがて静寂をもたらした。恐怖はとうに消え去っていた。
「…ヒヒ、ヒヒヒ、ヒヒヒヒヒ…」
なんだ?
「ヒャハハハハハハ!!ヒャハ!!ヒャハハハハハハ!!!」
「何が可笑しい!!」
「ヒャハ!ヒャハハ!いいねいいね!ヒャハ♪最高だよ兄ちゃん!ヒャハハハハハ!!!」
嬉しくない。全然嬉しくない。というかうるさい。黙れ。
「ボクはねぇ、男性が女性に変えられていく姿が好きなんだ。そのなかでも、

反抗的なのが無理矢理、イヤイヤ変えられていくのが、だ~い好きなんだ♪」

…下衆め。
「ヒャハ♪そうそう。先にこっちの姉ちゃんを別室で寝せてあげないと。これから兄ちゃんの声で起こしちゃかわいそうだからねぇ。」
こちらをイヤミったらしくチラリと見た後、かわいらしい寝息を立てていた元青年に向かって右手を突き上げた。彼女の周りが光り、一層輝きを増したところで彼女ごと忽然と消えてしまった。オレたちがここに来たときのような現象。これが彼の移動、運搬方法なのだろう。…少年の行動についてはもうすでに感覚が麻痺していた。
「待たせたね。じゃ~あ、始めよっか♪」
ムカデのように指を一本ずつ動かしながらこちらを向いた。相変わらず気色悪いガ…「っ!!」
不意に少年の手によって体が宙に浮かび上がった。始まる…!
(ヒヒヒ…)
頭の中に少年の声が響いた。自分の意思や脳の発する警報を押しのけ、不愉快なほど明瞭に生意気な声が広がる。
(聞こえるかな、兄ちゃん。)
少年はオレを観察しやすいようにオレと同じ目の高さまで飛んできた。
(どうだい?これなら兄ちゃんがどれだけ声をあげてもボクの声が聞こえるでしょ?)
下衆が…
(ヒャハ♪じゃあいくよ。あっちの兄ちゃんには自動でいったけど、兄ちゃんには特別に手動でいったげるね。その方がボクも楽しいんだよなぁ…♪)
手動…?何をする気…っ!
自分の周りにピンク色のもやが立ち込めた。まるでぬるま湯のようにポカポカと温かく、そのまま身を任せたくなる。ダメだ。気を確かに持たなければ。これはあの青年を変貌させてしまった毒ガスだ!
(ヒヒヒッ…)
少年の両手が同じピンク色のもやをまとった。そして両手の手のひらを広げて突き出し、ゆっくりと握った。
「ひゃあっ!!」
突然両胸に甘美な稲妻が走った。まるで性器を触ったようなまろやかな快感、それが両胸から脳へと突き抜けた。少年はニヤリと笑い、あたかもそこに胸があるように虚空を揉みしだく。
「んっ!くぅっ!ああぁぁぁっ!!」
両胸をこねくり回される感触と快感が、少年の手の動きと連動して襲いかかる。それは自慰よりも甘くて、強烈で、意思とは別に勝手に声が出てしまう。胸を隠し、抱え込んでもその感触は全く収まらない。性的な快感に股間が反応し、独りでに起き上がってしまっていた。
(ヒャハ♪兄ちゃん、ちょっとその手、どかしてごらんよ♪)
少年はふと攻める手を止めた。胸を揉まれる感触と快感がスゥ…と引いていく。すると本来の肌の感覚が戻り…押さえこんだ胸に柔らかな違和感が広がった。
「ハァ…ハァ………なっ!!!」
下を向くと、オレの胸がふっくらと膨らんでいた。がっちりとした肩幅に広げられたシャツの前面に二つ。胸板ではない、柔らくて豊満な丘がシャツを押し上げて形成されていた。それは男性には絶対できない大きさの乳房、おっぱい。
「な、ななな…なな…」
(兄ちゃんを包んでるもや。これに包まれると全身が性感帯になっちゃうんだ。体中どこだろうと触られるだけでもう、快感が止まらないのさ。しかもそれは、おチ○○ンをこすったときよりず~っと気持ちいい♪)
「うああっ!!」
少年が中空をさすると左腕に快感が走った。
(でね、それを気持ちいい~って感じちゃうと、そこから、

女の子になっちゃうのさ。)

左腕が細くなっていた。
「やめろぉぉぉぉ!!!」
変化を恐れ、少年を威嚇した。が、少年の手は止まらない。
「うあああああああ!!」
肩、二の腕、指先まで油を塗りこむようにねっとりとした感触が快感と共に走る。必死に振り払おうとするが、ピンク色のもやが一瞬切れるばかり。それもそのはず。少年本体は少し離れたところで何もない虚空を撫でまわしている。それが謎の力によってあたかも直に触られてるように感じ、快感を爆発させるのだ。されるがまま。少年の手を止める術はひとつもない。
(目の前で見せたから、もう何をされるかはわかってるよね。で~も、そうとわかっていても、兄ちゃんはな~んにもできない。)
「やめっ…あああああ!!!」
(ただ、ボクの手によってゆっくり、じっくりと女の子に変えられていくんだ。)
一往復、また一往復と、こすられるたび細く、柔らかく、しなやかに変えられていく。長旅で鍛えられた剛腕はかわいらしい娘の腕へと変貌した。
(ヒャハ♪安心しなよ。兄ちゃんの理想までいったらそれ以上変わんないからさ♪)
手の感触は腹へ、横腹へ、そして背中へ伸びる。六つに分かれていた腹筋も、全ての荷物を支えてきた背筋も皆快楽に溶けていく。我慢したくても射精直前、それ以上の性的感触に成す術もない。ただ、ろくろで回されているように撫でられ、こねられ、形を変えられてゆく。変化に伴う快楽の波に、無力感さえも押し流される。変わりたくない。変わりたくないのに、気持ちよくてたまらない。
(ほらほら、さっきの威勢はどうしたのさ。)
「ムグゥッ!!」
不意に口を抑えられた。
(もっと抵抗してみせてよ~♪)
軟膏を浸透させるように喉仏をゆっくりと円状に撫でられる。
「ゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
やめろやめろやめろぉぉぉ!!!固く膨らんだ凹凸が撫でられるたびに固さと大きさを失ってゆく。
「ムゥゥ!!ゥゥゥ!!!」
やめろって言ってるだろぉぉぉ!!かろうじて漏れ出る声もどんどん高音になってゆく。苦しいはずなのに気持ちよさが頭を支配する。
「プハッ!………えっ………」
見えない猿轡から解放された。溢れ出たのは、可憐で透き通っていて、それでいて芯のある女性の声。オレが潜在的に持っていた理想を見事に再現した美声。ときめいた。それはただ一音で暴力的な快楽を吹き飛ばし、脳を甘酸っぱいいとおしさで満たした。オレはその声に恋をした。
(へぇ~、かわいい声だね。ボクもいろんなのを聞いてきたけどグッときたよ。)
不意に甘美な世界へ雑音が割り込んできた。くそ、何ていまいましい。
「ムブッ!!」
(じゃ、そのまま顔と髪もいっちゃおうか~♪)
感傷に浸るのも束の間、両頬を中心にパンの生地のようにこねられる。ほったらかしだった顎ひげも鼻の上のニキビもその姿を消してゆく。
「~~~~~!!」
自分に合わせて少女の声も悶える。
(よ~しよし、よ~しよし、ヒャハハハ♪)
そして、犬のように頭を撫でまわされると、短く整えていた髪が急激に成長を始めた。それは伸びるだけではなく、その質感も全く別物に変わってゆく。針金のようにバリバリと硬かった毛が指通り滑らかな絹糸へと変わり、生え際から毛先までを滞りなく滑らせた。その流れはちょうど肩にかかるくらいで止まり、首筋をふわふわとくすぐった。
「ぁぁぁ………」
今まで感じたことのないその感触に、自分に起きている変化を改めて思い知らされる。


超能力で町を支配している少年に美少女に変えられる。
膨らんだ乳房、華奢な腕、かわいらしい美声、柔らかな髪の感触。生まれ変わってしまったそれらが、今の自分の声を借りて耳元で囁く。
あなたは変わる。あなたは女の子。あなたの想う、かわいい理想の女の子。
違う!オレは男だ!オレは!
「ひゃう!!」
お尻に快楽の電流が走る。自分の、甲高い女性の声が部屋に響く。違う…今のは自分の声じゃない…だって…
(どうだい?声が変わると、より実感しちゃうでしょ?)
「あっ…あぁ…あぁあぁぁ!」
(自分がかわいい女の子になってくことがさぁ♪)
「う、うるさ、あぁぁぁぁん!」
尻を撫で回しつつ、少年が頭に直接囁いてくる。撫で回される度に尻は膨らみ、まろやかな快感の波が押し寄せる。声を出したくないのに、その波が防波堤を越えて口をこじ開ける。そうして漏れでた艶かしい嬌声が、男としての意識を侵食していく。
あなたは変わる。あなたは女の子。あなたの想う、かわいい理想の女の子。
違う、違う!やめて!お願いやめて!
「あぁあぁあぁ!!」
腰がくびれを作り、ズボンがずり下がる。その光景に、青年の変わり果てた姿がフラッシュバックする。元の姿とはかけ離れた、優雅で、おしとやかな令嬢。ふわふわでくるくるの髪の毛。ぷにぷにのおっぱい。変えられる。変えられている。私も、あんなふうに!わかってたはずなのに、覚悟していたはずなのに、その光景が私の中の女の子を加速させる!
あなたは変わる。あなたは女の子。あなたの想う、かわいい理想の女の子。
その声をやめて!違う、違うの!
「うっ、あっ、あぁぁぁぁ!」
脚も少年の手によって堕とされ、滑らかな曲線を描いた。もう、男として残された部分は股間にできた山だけだった。幾重にも性的快楽に刺激されたもののイクことを許されず、見たことないくらいに膨れ上がった最後の砦。そこに自分の、男としての精神が追い込まれていた。もしここが崩れてしまったら、イってしまったら私は私に飲まれてしまう。直感的にそう感じた。そこに、少年の声が響く。
(うん♪今までよくがんばったね。よく耐えたね~。ヒャハ♪な~んて、ボクがずっとイかないようにせき止めてたんだけどね。でももういいんだ。それも終わり。ボクの合図でピンは外される。
いいよ、ほら。さぁ、イっちゃいな♪)
止め金が外された。
「いやぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!」
喜悦の声が劇場に響き渡った。
思考の全てが快楽に塗り潰される。
抑圧されていたものが噴流のように出てゆく。
それは更なる快感を巻き起こし、男としての意識を押し流してゆく。
その気持ちよさがまた噴流の引き金を引き、快楽を巻き起こし、その連鎖が止まらない。
噴流の引き金が引かれる度にその出口は小さく、短くなり、ついには出来上がった縦の割れ目の上部にちょこんと収まった。
その割れ目の奥深く、お腹の中が熱くなり、別の何かが形成される。
私の頭はその変化をも快楽に感じ、気持ちよさ以外もう何も感じられなくなっていた。
かろうじて感じられたのは、今新たな出口から噴き出ようとする波。
変えられてしまったことを告げる波。
でも、私にはもうそれを止めることはできなかった。
「あぁあぁあぁあぁあぁあぁ!!!」

イってしまった。絶頂してしまった。私は女の子として絶頂し、全てを吐き出してしまった。でも、今までとは違って、体がふわふわとした高揚感に包まれていた。何かをやりきったような、そんな心地よい感触。私はその感触に身を任せ、瞼を閉じた。

<2.5>
やぁ、ボクだよ。ヒャハ♪そう。この理想郷を作り、キミを変えちゃった世紀の美少年♪おっとっと、乱暴はいけないよ。大丈夫、大丈夫。すぐ消えたげるから。でもその前に、ひとつだけ教えて欲しいんだ。
そう。ひとつだけ。

ねぇ、君は…どんな名前に萌える?
どんな名前にときめく?
かわいいって思う?

………え?わからない?
そうだなぁ…例えば、名前を見ただけで、あっ、この子絶対かわいいって思っちゃう名前。
自分でお話を作ろうとしたときに、ふと頭に浮かんだヒロインの名前。
次に女の子が生まれたときにつけようとしている名前。
隣にいて、なんとなく呼びたくなっちゃう名前。
この子を見て、パッと思いついた名前。

アリス 、

エミ 、

カレン 、

クリス 、

サクラ 、

サリー 、

シャロン 、

ソフィー 、

デイジー 、

ナンシー 、

ニナ 、

フィリー 、

ヘレン 、

ヘザー 、

マリー、

メアリー 、

ユミ 、

リオ 、

リンダ 、

ロザリー 、

…えっ、もう出た?惜しい?

うーん………じゃあわかった。

今君の中にあるその名前、
君の理想の女の子の名前を教えてよ。

うん。わかった。ありがとう。

かわいい名前だね。

じゃあそろそろボクも消えるよ。
ヒャハ♪バイバイじゃあね、また会おう。

<3>
オレは隣街の酒場にいた。誰かが向こうのテーブルで話している。様子を見に行った者が誰も帰ってこない村がある、と。面白い。明日からそこに向かおう。それでオレがその謎を明らかにしてやる!そう決意して酒代を払い、オレは酒場を後にした…

目が覚めた。
オレはふかふかなベッドの上に横たわっていた。今のは…夢だろうか?分厚いカーテンで光が遮られ、部屋の中は真っ暗だった。夢とわかった途端に体から力が抜ける。ふかふかのベッド。何日ぶりのベッドだろう。野宿続きでここ最近満足に眠れていなかった。しかし、何故ベッドの上にいるのだろう。村の中で宿をとった覚えがない。昨晩ベッドに寝転がった記憶もない…それどころか、村に入ってからの記憶が定かでない。村に入って、女の子がいっぱいで、それから…
…きっと寝ぼけているだけだろう。上体を起こして伸びをする。
「う~~~…ん!?」
麗しい女性の声がした。かわいい。好みの真ん中をズバッと射抜く美声。ときめいた。この部屋にオレ以外誰かいる?見回しても人影はない。…というよりも真っ暗で何も見えない。そういえば今の女の子の声、どこかで聞いたような…。目を伏せ、記憶をたどっていると、不意に部屋のカーテンが一斉に開かれた。昼下がりの明りが辺りを照らす。部屋の壁やドアには豪華な装飾が施されていた。宿ではない。そこはまるで貴族の屋敷の一室。その中央に置かれたカーテン付きのベッド。そのベッドの上にオレはいた…はずだった。ベッドの真正面に置かれた大きな姿見。その鏡に映ったのはオレとは全く違う、別の人物。
オレの理想の美少女がそこにいた。
気が強そうだが、その中に優しさを秘めるパッチリとした二重。その瞳を彩る長く、整えられたまつ毛。絶妙な大きさと高さで顔全体のバランスをとる鼻。つややかな唇。傷もにきびも、それらがあった跡すらない透明感とハリのある肌。ゆるやかな波を描きつつ、それらをやさしく包み込む茶色の髪。その髪は左右をピンクのリボンでおさげにしている。女性らしく丸みを帯びた体には清楚な藍色のメイド服が広がる。その藍色にピンクという配色が、リボンをよりかわいらしく見せている。そして頭にはひらひらのヘッドドレスが広がっていた。この屋敷のメイドさんだろうか。目の前の少女はこちらを向き、驚いた表情のまま頬を赤らめて硬直していた。まずい。どうしよう。かわいい。かわいすぎる。あまりにも理想的な容姿と雰囲気を持つ彼女を前に、考えがまとまらない。すると彼女もオレと同様に顔を真っ赤にし、はにかんでいた。くそ、なんてかわいいんだ。その様子にまたときめいてしまう。
「あ、あの!」
勇気を出して話しかける。すると同時に彼女も声をかけてくれた。
「あ、そ、そちらからどうぞ」
とっさに譲渡するが、彼女も同じ言葉で返す。あぁ…なんて健気でいい子なんだ…しばらく彼女へのときめきにどっぷりと浸かっていた。が、ふと我に返る。さっきのやりとりの中でオレ自身の、男の声が聞こえなかった。そこに響いていたのは麗しい彼女の声だけ。でも、オレは確かに発声した。そういえばさっき背伸びしたときも同じように…。そうだ。あまりの彼女のかわいさにぶっ飛んでいたが、目の前にあるのは大きな姿見。彼女はそこに正対している。彼女がいるのはオレがいるはずのベットの上。ということは…
「ヒャハハハ!ヒャハ!ヒャハハハハ!!」
桃色の空間をぶち壊す、あの下衆な高笑い。その声が鍵となり、この村に入ってからの記憶が蘇ってくる。
「あ…あぁ………」
絶望を帯びた、麗しい女性の声。頭を抱えたオレの手を、絹糸のように柔らかく茶色い髪が撫でる。その髪をまとめたピンクのリボンが落とした視線の先にふわりと降り立った。その下には藍色のメイド服が広がり、たわわと実った双丘がそれを持ち上げる。目の前の彼女も少し目に涙を浮かべながら頭を抱えている。その姿はちょうど、オレと鏡合わせ。そうだ…オレは少年の手で彼女に…理想の美少女にされてしまったのだった。事の元凶、オレを作り変えた少年が部屋の入口でニヤける。
「おはよう、『____』。よく眠れたかな?」
「よく眠れてなんか………えっ!」
返事をした後に気づいた。少年が呼んだのは明らかに女性とわかる、かわいらしい名前だった。男として生まれた自分にそんな名前がつけられるはずない。だが、反射的に反応してしまうほどその名前が自分のものに感じられた。そして逆に、自分が親から授かった元々の名前が全く思い出せない。
「ねぇどうしたの『____』、『____』ってば~」
「うるさい!静かにして!」
だめだ。かわいい。自分の声に、名前にときめいてしまう。今はとにかく名前を思い出すのに集中したかった。目を瞑り、耳をふさぎ、首を横に振る。長くなった髪が少し遅れて頬をくすぐるのに気付いてやめる。
「うぅ~~~~!!」
うなり声すらいとおしく感じる。だめだ。集中しないと。集中。とにかく過去に名前が呼ばれた、もしくは見たであろう景色を掘り起こす。宿帳の記入、食堂の離席待ち、友人や両親とのやりとり。だが、どれも映像はぼやけ、音声はとびとびになり、本当に欲しい情報だけが手に入らない。
「思い出そうとしても無駄だよ。」
「えっ!?」
「頭の中に鍵をかけたのさ。『____』の元の姿に関する情報だけ引き出せないようにね♪」
信じられなかった。でも、少年の言うとおりだった。元々男だったことは思い出せるが、どんな顔を、どんな手をしていたのかさえも思い出せない。鏡に映った姿で思い出されるのはさっきの寸劇だけだった。そうだ。せめて自分と同じく変えられたあの子に会って私の特徴を聞けば…
「あ、そうそう。『____』が自分のことを思い出せないように、他の子の過去も思い出せなくなってるから。あの子に聞いたって無駄だよ~。」
少年がこっちの心を見透かしたように答える。試してみるが、彼女の元の姿がどんな声で、どんな顔をしていたかがボヤけて見えない。あの劇場のような大広間で思い出せることは、ちょうど彼女が深窓の令嬢に変えられてしまったシーンと、自分が体を触られて女に変えられていく感触、そしてあの…絶頂した時の嬌声と快楽の嵐だった。望みは絶たれた。
「そ…そんな…」
自分の中の自分が確固たるものを失い、ぼやけて揺らぎだす。柱を失った心がグラグラと揺れ、体が平衡を保てない。全てに対する自信を失い、だんだんと虚ろな存在になっていくのを感じた。
「大丈夫だよ『____』。ほらこっち来て。」
「えっ、やっ、ちょ、ちょっと!」
少年が私の腕を引っ張る。メイド服に包まれた細い腕が力負けし、ベッドから引きずりだされる。
掛け布団のなかからスカート部分が白いエプロンと共に現れた。
「引っ張らないで!わぁっ!」
転げ落ちる寸前でギリギリ足が出せた。カツンというヒールの音が鳴る。その音は私が地に足をつける度に鳴り響いた。
「ほら、ごらん…」
「あ…」

ベッドの前の、少女を映していた姿見の前に立たされた。全身を映す、大きな姿見。そこに映りこんだのは私の想う理想の美少女、『____』。うるうると目をうるませ、すがるような表情でこちらを見つめている。藍色のメイド服はまるで彼女に合わせて作られたように体にフィットしていた。男物と違い、右側の生地が上になるように裁断された胸部は、中の膨らみとともに自分が女性であることを証明する。肩にはふわりとパフスリーブが膨らみ、そこから伸びる華奢な腕は滑らかな長袖に包まれていた。袖は肘を越えたところから広がり、その袖口には真っ白なフリルがあしらわれている。腰には純白のエプロンが巻かれ、スカート部分をふわりと覆う。その紐は背中でキュッと結ばれ、大きな蝶を形作っていた。そこから伸びたスカートは膝下までをすっぽりと覆い、その裾には袖口のようにひらひらとフリルがあしらわれていた。その下からは真新しい黒のパンプスがちょこんと顔を覗かせる。控えめに施されたフリルとピンクのリボン、そして首に巻かれた黄色のスカーフ。それらが仕事着の中でもかわいらしさを忘れない女の子らしさを演出し、派手に着飾るよりも魅力的に感じた。つま先から膝上までは白色のニーハイソックスに覆われ、足全体に甘美な締め付けと感触を与える。その上ではもっと柔らかな三角の布地がぴったりと下腹部を包み込み、お尻と、すっかり姿を変えた股間を撫でまわす。胸元ではブラジャーが肩と背中へ手を伸ばし、豊満になった胸をやさしく縛り付けていた。今まで感じたことのない、女性の下着の感触。姿見を前にした途端、鏡に映らないそれらがその存在を主張し出した。自分を包み込む、男の衣類とは違う、柔らかい肌のための滑らかな肌触り。その感触が、薄れつつも存在する自分が男だったという意識を刺激し、まろやかな羞恥を巻き起こす。男だったはずなのにこんな姿にされている。かわいらしい、女の子の服を着せられている。
恥ずかしい…。彼女への恋ではなく、羞恥で顔が赤くなる。両手でエプロンを握りしめ、ただこの仕打ちに耐えることしかできなかった。
「ヒャハ♪かわいいねその制服。『____』にぴったりだよ。」
「か、かわいいって…ア、アンタが勝手に着せたんでしょこれ!早く元に戻してよ!」
もう恥ずかしくてたまらない。目を瞑って下を向きながら怒鳴る。
「うん。その服着せたのはボクだけど~、作ったのはボクじゃないんだ。『____』が自分で作ったんだよ♪」
「私が!?な、何を言って…」
私がこんな服作れるはずがない。生まれてこのかた裁縫なんかしたことがないし、こういうのは全部母親に任せてきた。というか針に糸を通したことすらないし、ましてや服なんて、しかもこんな生地もしっかりした私好みの………
私………好み………?
「っ!!」
「ヒャハハ♪『____』がデザインしたって言った方がいいかな?1回見てるもんね、前の子が自分の想う服を着せられるとこ♪」
見ていた。私の前に変身させられた子が彼女好みのワンピースを着せられ、彼女好みの靴を履かされるところを。彼女が着ていた男物の服がピンクのリボンへ変わり、そして彼女の望む理想の衣装へ変身するところを。じゃあこのメイド服は私の…?
ふと、頭の中で彼女が私に置き換えられる。どこからともなくピンクのリボンが現れ、体が包みこまれていく錯覚に襲われる。それは絹のように柔らかく、まろやかで気持ちいい感触で、私の全身をくるくるとくるんでゆく。ブラジャー、ショーツ、ニーハイソックス、パンプス。ひとつひとつ丁寧に、私を彩る衣装へと姿を変えてゆく。下半身がふわりとスカートを広げるためのパニエに包まれた後、ひとしきり大きなリボンの渦が優しく体全体を溶かしてゆく。気づけばそれは藍色の、袖口と裾にフリルを覗かせた清楚なメイド服へと変わり、私の肌と広げられたパニエの上に着地する。その着心地と柔らかさが、全身を幸せで満たしてゆく。その腰には純白のエプロン、胸元には黄色のスカーフがしゅるりと巻かれ、小さく分離した2つのリボンがくるんっと私の髪を結ぶ。そして仕上げに、頭へふわふわのヘッドドレスが降りてきた。
理想のメイド服を纏った理想の美少女。
たった今、そんな大変身をしてその場に降り立ったような、そんな妄想が頭の中で再生された。
…って、な、何を考えてるの私は!!
再び羞恥と、体を包む柔らかな感触が襲いかかる。頭がのぼせるほど熱くなる。
「恥ずかしがることないさ。似合ってる。すっごくかわいいよ、『____』。」
「~~~!!」
うれしくない。全然うれしくない…はずなのに。自分の容姿を褒める言葉に胸がざわめく。それは男としてではない、女の子の、『____』としてのときめき。かわいい………かわいい…?私が…?視界を遮り過去の、男の自分へとすがろうとするが、体を包むメイド服の感触がそれを許さず、意識を今の私へと縛り付ける。そしてその柔らかさが、今しがた姿見に映っていた私を頭の中に映し出す。そして少年の手で変えられているときのように、私自身の声が耳元で囁く。
あなたは変わる。あなたは女の子。あなたの想う、かわいい理想の女の子。
私の想う、私の理想の女の子。それが私。私は女の子。私の頭の中で可憐で透き通った、それでいて芯のある女性の、私の声が頭に響く。少年が劇場で私を変えたように、頭の中で私が私を変えてゆく。私は………
ブワッ!!
「きゃあ!!」
不意に後ろから爽やかな風が下半身を通り抜ける。鏡の中で私のスカートが後ろからパニエごと一気にめくりあがった。
「なっ…なななっ…なっ…」
「ヒャハ♪フリルたっぷりの薄いピンク♪」
「キャァァァァァァァ!!」
スカートを押さえて鏡の横に後ずさる。う、うそでしょ、い、今、ス、ススス、スカート……!!
「かわいいパンツじゃん♪いい趣味してるねぇ、『____』♪」
「ア、ア、アンタ!な、ば、ばば、バカじゃないの!?」
怒りと恥ずかしさの噴流に言葉がついてこない。
「そういや言ってなかったね。ボクの楽しみその3~♪女になった子が恥ずかしがるのを観察すること~♪いやぁ~実はこれが一番楽しみなんだよね~♪元から女だった子とは比べ物にならない、女の子になりきれない女の子の恥ずかしがる様!ヒャハ♪ホンットに最高♪」
ホンットに最悪。
「いいじゃないの。『____』だって理想の姿になれたんだからさ~」
「勝手に決めないで!アンタが勝手にやったんでしょ!?こんなの、なりたくてなったんじゃない!!」
「ホントにそうかな。」
「な、なんですって!?」
「だって、イヤがってるわりには楽しんでるじゃない。すっかり女の子らしい口調になってるしさ♪」
「えっ…なっ…!」
言われるまで気づかなかった。違う。気づけなかった。違和感なく、まるでそれが普通のように感じていた。そんな…私…じゃない!じゃなくて!
「口調だけじゃないよ。仕草や表情も女の子のそれになってる。ヒャハ♪気づいてなかった?」
違う。そんなことない。両手で自分を抱いて、肩をすくめつつ首をふるふると振る。その仕草は恐怖におののく少女そのもの。意識なんかしていない。体が自然とそうしていた。それだって言われるまで気づかなかったし、あれほど意識していた声ももうすっかり自分のものとして受け入れてしまっている。ウソでしょ…?こんな………。私は自分の思っている以上に『____』へと染まっていた。恥ずかしさでまた顔が赤くなってくる。それこそこいつの思う壺なのに。
「ア、アンタのせいでしょ!?こ、こんな…わた…お、オレをこんなにしてぇ!!」
オレと言う一人称がたまらなく言いづらい。あんなに自然と言っていたはずなのに、まるで本能が嫌がっているようにためらってしまう。
「えぇ?何言ってんのさ。ボクはそこにはな~んにもしてないよ?」
「ウソ!!」
「ウソじゃないよ。ボクが変えたのは体と服と、あと前の記憶。それだけ。心や本質にはな~んにも手ぇ出してないよ。」
「ウソよ!だって!!」
「君は望んでるんだよ。」
体がビクッとする。姿見がひとりでに持ち上がり、こちらに向き直る。その表面に、右手を胸に当てた涙目のメイド少女が映し出される。
「君は、君の望む理想の美少女。顔も背丈も体つきも理想どおり。着ているその服も、君の好みから作り出した理想の衣装。理想の衣装に身を包んだ理想の美少女。そんな素敵な子が堂々と雄々しくあぐらをかいたり、ガサツで汚い言葉を使ったらイヤだよねぇ。そんな子にはずっと、かわいらしい、君の想う口調で、君の想う仕草でいてほしいよねぇ~♪」
ウソでしょ…この子、何を言って…
「君の仕草を矯正してるのは君。君自身さ。ヒャハ♪自己暗示みたいなものかな?君自身が、『____』だったらこう言うはず、『____』だったらこう振る舞うはず、って君に教えこませてるんだよ。」
「ウ、ウソよそんなの!それじゃ…私は…!」
「君は君の想う『____』であり続けるんだ。君自身が理想に応えることで、君の理想どおりの美少女がこの世に生まれる。素晴らしいじゃないか♪完璧で非の打ちどころのない美少女がまた一人この世に増えるんだよ?ヒャハ♪ボクにもっと感謝してほしいなぁ~、ヒャ~ハハハハハ♪」
「イヤ!そんなのイヤ!元に戻して!!男の私に戻してよ!!」
「ダ~~~~~メっ♪戻しちゃったら絶対ここのことバラすでしょ?ここにいられても女の子だけっていうボクの理想郷が崩れちゃうし、それに男に変身するなんておもしろくもなんともないじゃん。ほらご覧よ。今の『____』の姿の方が何万倍も素敵だよ。」
「そ…そんなぁ…」
私…このままこの村に閉じ込められちゃうの…?いやだ…そんなのいやだよぉ…
涙がボロボロとこぼれ落ちる。止まらない。
「もどして…ねぇおねがい…もとに………もとにもどしてよぉ………」
私はその場に泣き崩れた。ぺたんとお尻を地面につけた女の子座りで。私の想う女の子の、女の子らしい姿で。

<4>
私は泣いた。こんな姿にされちゃった不甲斐なさ、こんな村に来ちゃった浅はかさ、そして、もうこの村から出られないという理不尽さに、涙が止まらなかった。私、ずっとこのままなの…?元に戻れないの…?いやだ…そんなのあんまりだよ…
「『____』、『____』…」
声が聞こえた。あのいまいましい声じゃない。私の名前を呼ぶ、どこか懐かしい男性の声。
「『____』、泣いてるの?大丈夫?」
大きな手が私の頭の上にポンと置かれる。涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげると、そこには一人の男性の顔があった。短く切りそろえられた茶髪に、ちょっとほったらかし気味の顎ひげ。私の細腕と違って、鍛え抜かれている剛腕。この村にいるということは、彼も旅人なのだろうか。だとしたら早くこの村から出るように言わなければいけない。彼が私のように変えられてしまわないように警告しなければいけない。でもそのとき私には別の、とある感情があふれていた。
…カッコいい。頭が、顔が火照って、胸がドキドキする。それはまるで今の私を私と認識する前に、姿見に映る美少女に抱いた感情。………恋?いや、そんな…ありえない。だって相手は男。私はそんな気なんてなかったし、男の人に対してそんな感情を抱くわけ…。
「よしよし、怖かったね。でももう大丈夫。大丈夫だから。泣かなくてもいいんだよ。」
「あ、あぅ………うぅん………」
彼の手が私をやさしく撫でる。厚皮とまめでガサついた手は、触り心地が悪いはずなのに、それがかえって心地よく感じてしまう。安心感で、全身が頭からとろとろとろけてゆく。涙はいつの間にか止まっていた。…そうだ。泣いてる場合じゃない。早くこの人に伝えないと。この村のこと。あの少年のこと。少年が私にしたこと。とにかく彼はここにいちゃいけない!
「あ、あの!」
「ん?」
「あっ…え…と、その………」
ボンッと頭から湯気が出たような気がする。いったん呼吸を整えてから仕切りなおす。
「き、危険なんです!この村!早くここから出ていかないとあなたも!あいつに!」
伝わっている気がしない。でも伝えなきゃ。夢中で言葉を組み合わせる。
「あぁ、うん。それなら大丈夫だよ。」
「大丈夫なはずないです!大変なんです!ここに男の人がいたら!!」
「ハハッ、心配性だなぁ、『____』は。」
ポンポンと頭に軽く手を置かれる。カァーっと頭に熱が上ってくるのがわかる。目を伏せて感情を抑える。心配性なんかじゃない。私はただこの人にこの人のままでいてほしくて、私のように、こんなことになってほしくないだけで………あれ?そういえば、なんでこの人は私の名前を知っているんだろう。知り合いだとしても私はこんな姿に変えられてしまってるし、…というか今の名前って元々のじゃない、アイツが勝手につけたこの姿の、私の…
「…えっ…」
身の毛がよだつ。私の中で、ある最悪の可能性がはじき出される。それは…
「気づいちゃった?はぁ~、前の子と違ってやっぱり冴えてるねぇ。ヒャハ♪」
男性があの忌むべき存在と同じ笑い方をする。自分でも血の気が引いてゆくのがわかる。
「そうだよ、ボクだよ。ヒャハ♪バ~レちゃった♪でもどう?すごいでしょ!」
彼が青いもやに包まれ、その中からアイツ、私をこんな姿にした少年が現れた。信じられない…!なんてタチの悪いいたずらを…!
「でも今回すごいのは『____』の方だなぁ。こんな早くバレるの何人目だろ?君の前の子はぜ~んぶ終わっても気づかなくて、結局ボクからバラしたんだよねぇ。」
私の前の子…私といっしょに捕まって可憐な姿に、深窓の令嬢にされちゃった子。彼女もこの屋敷のどこかに捕まっているのだろうか。それに今の、ぜ~んぶ終わっても、ってなんだろう。もし気づかなかったら私、何をされちゃってたんだろう。両手で自分を抱きしめる。
「まぁいいや。前の子と状況が真逆で別の楽しみ方ができそうだねぇ~♪ヒヒヒッ♪」
少年が不気味にほほ笑む。もうイヤな予感しかしない。
パチンッ!
指を鳴らすと同時に、少年が青いもやに包まれる。そして中から再びあの男性が姿を現した。
「っ!!」
私の中に稲妻が走った。
………ウソだ。なんで気づかなかったんだろう。違う、解除されたんだ、私の頭にかけられていた鍵が。私の頭を撫でて、慰めてくれた男性。そのどこか懐かしい声。まちがいない。それは私が『____』に変えられる前の、男だったときの姿だった。でも何かおかしい。その姿に感じたのは既視感や懐かしさだけじゃなかった。あの、さっき泣いていた顔をあげたときのような甘美で甘酸っぱい感情。”会えた”よりも”逢えた”と表現するべき胸の高鳴り。それは自分の元の姿に対する感情ではなく、まるで意中の異性を慕う気持ち………待って!そんなわけない!だってあれは私で、しかもあの少年が化けたもので………自分に言い聞かせるが、女の子としての、『____』としての感情は止まらない。胸がキュンとして、顔が熱くなって、彼の一挙手一投足から目が離せない。恋しちゃってる。ときめいちゃってる。好きになっちゃっている。私が私自身に、元々の男の姿に。
「ハハッ、どうしたの?顔真っ赤だよ、『____』。」
「っ!!う、うるさい!!その声で、話しかけないで!!」
怒鳴り散らしてプイッとそっぽを向く。でも顔の紅潮は解けない。むしろ次の彼の言葉を待ってしまっている。こうして突き放した後の、彼の反応をうかがってしまっている。何を考えてるの私!あの人は私で、それでいてあの少年なのに!なのに…なんで…!そのとき、私は思い出した。今の私が彼にとって、元の自分にとってどんな存在なのかを。今の私は、私の想う理想の美少女。元の、男性だった頃の私が一目惚れして、結婚して、人生を投げ打ってでも守りたいって思える理想の女性像。ならば、逆はどうだろう。誰だって、その子にとっても自分がそういう存在であってほしいって願う。誰だって、自分が彼女に惹かれるように、彼女も自分に惹かれてほしいって願う。誰だって、そうしてお互いに両想いであってほしいって願う。つまり今の私、『____』にとって、一目惚れして、結婚して、人生を通していっしょにいたいって思える理想の男性像。それが彼、元の私。元の私が『____』の姿に、声に惹かれたように、『____』は元の私のそれに惹かれてしまう。その本能に引っ張られて、私も元の私に惹かれてしまう。ときめいてしまう。恋してしまう!ウソよ!そんなこと、あってたまるわけ…!
「『____』。」
キュンと胸がときめく。彼の足音が近づいてくる。近づくたび、胸の鼓動も大きくなる。そして優しくあごを持たれて、無理やりアイツの方に向かされて、そして、
「んっ…!!」
唇を奪われた。何が起きたかわからなくて、目を白黒させる。突き飛ばしたいのに、拒否したいのに力が入らない。目を瞑り、ただ彼に身を任せてしまう。頭がボーっとして、心が満たされていく。両肩に手を置かれると、体が勝手に彼の方に向き直ってしまった。一瞬が、永遠に感じた。一旦唇を離し、彼がまっすぐに私を見つめる。そんな彼を私も見つめ返す。視線も、体も動かせない。ただ、本能が待っている。続きを。この甘美な時間の続きを。瞼が一人でに閉じられ、少し背伸びしながら唇をつき出してしまう。私の心の声は届かない。もっと根本の、中枢からの指示が優先される。塗りつぶされる。恋する乙女にされてしまう。おねがいやめて、女の子にしないで。私はおと…。無慈悲に、柔らかい唇が私に着地する。溶け出す。加速する。好きが溢れる。幸せでいっぱいになる。突き出した唇を、彼の唇がやさしく挟みこんで吸いつく。吸いつきながら、そのたくましい両手が髪を、うなじを、頬を柔らかく撫で回し、私の心をとろけさせる。そして口内へと舌が侵入して、私の舌と絡む。彼の唾液と私の唾液が混ざり合って、とろけて、気持ちよくて、ずっとこのままでいたいと思ってしまう。ぎゅっと抱き寄せられると、私も彼の背中に腕を回してしまう。あぁ…こんなこと…したくなんてないのに…。太い腕、厚い胸板。がっしりした、男の体。『____』になってしまった本能が、女性のそれとは違う安心感に包まれ、恍惚の渦へと身をゆだねる。それに巻き込まれ、必死に抵抗を続ける私の意識も吸い込まれていく。
あぁ…幸せ…
唇を離して、彼が再びじっと私を見つめる。私の元の顔のはずなのに、この村に来るまでずっと鏡で見ていたはずの顔なのに、その顔立ち、その微笑みに全てが溶かされる。
「じゃあ…行こうか。」
「どこに………ひゃあ!」
横から膝の裏と背中に手を回され、ひょいっと抱き抱えられた。突然のことで、私も反射的に彼にしがみついてしまう。背中と膝を下から支えられているこの体制、これってまさか…お姫さまだっこ…!?
「あ…あぁ………///」
その単語でまた恥ずかしくなってくる。完全に…女の子扱いされてる…!
「ど…どこに連れてく気…?」
「ふふっ、すぐそこだよ。」
そう言って、数歩歩いたところに下ろされた。そして、黒のパンプスを脱がされ、ヘッドドレスを奪われる。そこはふかふかで柔らかい、私が目覚めたベッドの上。
「ま、まさか…!」
「そのまさかさ。
…オレの女になって。『____』」

<5>
「…オレの女になって。『____』」
私の元の姿に、私の、『____』の思う理想の男性像に化けた少年。その彼からの告白。こくはく。コクハク。えっ………告白…された…!?私の中で、うれしさが爆発する。ち、違う!私じゃない!私の…私の中の美少女、『____』としての本能が勝手に…否定を重ねても、そのうれしさが私にも伝染してくる。本能の起こす爆発に、喜びの渦に巻き込まれてゆく。アイツに、私をこんなにしたアイツに言われて…うれしいわけ…そんなわけないのに…
「顔、真っ赤だよ、『____』。ふふっ、かわいい。」
「う、うるさい………んっ………」
アイツは私にもう一度キスすると、しゅるしゅると私の首元のスカーフをほどいた。そして上からひとつずつ、ワンピースのフロントボタンを外してゆく。ぬ、脱がされてる…やめさせないと…でも、体が動かない。声もあげられない。期待している。これから始まることを心のどこかで期待してしまってる。女として犯されることを私は………違う、そんなわけ………
胸の下までボタンを外されると、上体を支えられて、肩を出した半脱ぎの状態にされる。そして抱きしめられながら、ブラジャーのホックを外された。
「ぁ………」
拘束を解かれた乳房がふるふると震えた。私のおっぱい………おっきい…。その大きさでありながら弾力も形状も申し分ない、理想のおっぱい。それを彼の手が柔らかく包む。
「ひゃんっ!!」
私の体を変えたときとは違い、両方の胸を側面から両手でやさしく、ゆっくりと円を描くように揉む。その手が一周する度、気持ちよく、淫らな気分へと堕ちていく。女としての性欲が沸々と湧いてくる。興奮して、段々と息づかいが荒くなっていく。しばらくすると揉みしだく手が次第にその先端、乳首へと迫ってくる。そして乳首の周り、乳輪の縁を指先でなぞり出す。人差し指、中指、親指で螺子をいじるようにスリスリ、右回り、左回り、右回り、左回り…乳輪の周りをいじり続ける。繰り返し、繰り返し、なかなか乳頭へ上がって来てくれない。……違う…そこじゃない…早く…早くその中の…真ん中の、もっと先っちょをいじって………な、何考えてるの私…何求めちゃってるの………。じれったく思う私の乳首を不意に彼が咥えた。
「ひゃうぅっ!!」
起こしていた上体が押し倒される。乳首を吸い、舐め、こねくり回す。無意識に待ってしまっていたその責めに、淫らな快感が頭を突き抜けてゆく。
「ふあっ…あっ…あぅ、あっ、あぁ!」
あの大広間で撫で回されたときとは違う、意中の相手から触られてるという恍惚、そして焦らされていた時間が快楽を倍増させる。
「あっ…あっ…あっ…やっ…やら…あっ…あぁっ…!」
舌で右の乳首をペロペロ、口でチュウチュウ、右手で左の乳首を、クニクニ、コリコリ。体が反応してビクン、ビクンと弓なりになり、乳首を責めたてられてるのに、あそこがキュンキュン疼き出す。
「…ヒヒヒッ、どうだい?恨むべき相手にこうやっていじくられてる気分は?」
「ア、アンタ……ひゃん!」
彼が憎き少年の口調で語りかける。その言葉によって『____』に堕ちかけていた元の私の意識が戻ってくる。だが、それこそが少年の狙いだった。
「君が悪いんだよ、『____』。君がボクだって気づいちゃうから悪いのさ。ンフフッ、気づかなかったら最後まで気持ちよく、女の子のままでいれたのに。」
「ふざけ…ンンッ…!」
「ンッ………ヒヒッ、そういってるわりに、体の方は正直じゃない?」
そんなことない。そんなことないって、そう言いたいのに体が動かない。完全に『____』と化した本能が体を支配し、続きを期待している。正体を知ってもなお彼に抱かれたいと望んでしまう。されるがままに、次の行為を待ってしまう。そんな私の様子に彼もほくそ笑む。私の意思が無視され、ただ女の体の本能に引きづられている様を、そしてそんな私を自分が好きにできるという状況を心から楽しんでいた。彼の手が私の腰へと伸びる。エプロンの蝶がほどかれ、シュルシュルと半脱ぎの状態だったメイド服を脱がされていく。藍色の鎧が剥ぎ取られ、そのスカート部分に隠されていた下半身があらわになった。白のニーハイソックスがつま先から女性らしいなだらかな曲線を描き、その境界には押し上げられた肉つきのいいももがぷにっと寄せられていた。そしてその上ではスカートめくりで見られてしまったフリルたっぷりのショーツが秘部を優しく包み込んでいた。その上から私に新しくできた割れ目をゆっくりとなぞる。
「ふあ…」
割れ目に沿ってゾクリと快楽が走る。そしてその感触とともにじっとり、粘り気のある液体の感触が伝わる。まさか…そんな…
「ふふっ、ショーツの上からでも、もうこんなにグッショリ。あんなこと言ってたのに、こんなに感じちゃってたんだね。」
「ち、ちがう…!そんなこと…!」
「イっちゃわないようにがんばってガマンしてたんだよねぇ…えらいえらい♪」
「ぁ、あぁ、あぁ~…」
話してる間も、指が私に作られた谷の上を往復する。そしてついにそのショーツに手をかけられ、ゆっくりと脱がされていく。柔らかい感触がももを通り過ぎ、片足に引っ掛けられる。もう私が身につけているのは白のニーハイソックスだけ。でもそれらは私を守ってくれない。むしろ私の視界に映りこみ、男物とは違う滑らかな曲線と感触で私の中の女性を加速させる。そのニーハイソックスに持ちあげられたももを羽箒のようにやさしく、柔らかく彼の手がさする。くすぐりに近いその手は徐々に徐々に上へと登り、無防備にされた陰部へと近づいてくる。触られる…ゾクリ、ゾクリとその手が近づく度、撫でられる度、私の中で淫らな期待が高まってくる。その期待が勝手に、閉じていた足を開かせてしまう。
「ふふふっ、自分から開いちゃうなんて、エッチだなぁ『____』は。」
「ち、違う、これは…体が勝手に…」
「なんにも違わないよ。………ねぇ、このまま触ってほしいんでしょ、『____』の、オマンコ。」
「っ………!」
オマンコ…元の私にはなかった、コイツによって作られた『____』の女性器…私の女性器…オマンコ…私のオマンコ…その言葉が私の頭の中で反響して、まだ男を捨てきれない私の意識を刺激する。
「ふふっ、初々しくてかわいい。」
「~~~///」
「かわいいよ、『____』」
そう言ってくすぐる手を徐々に近づける。私の女性器、オマンコに。ふわふわ、すりすり、近づいてくる。近づく程、産み出される快感も強くなる。その感触に自然と喘いでしまう。目を瞑って、できるだけ声を上げないようにシーツを握りしめて耐える。や…やだ…来ないで………触られる…触られちゃう…私の…私のオマンコ………。 私の中で反響する声。拒否する傍らで、意志とは真逆の淫らな欲求が沸々と湧いてくる。
「ヒヒヒッ、とうちゃ~く♪」
近づいてきた指がとうとう私の割れ目の下端に到達した。その割れ目の周りを人差し指が舐めるように滑り出す。上へ上へと撫でられる度、体がゾクッ、ゾクッと震える。しかし、その指は膣には入らず、割れ目の上のアレを避けるような軌道を描く。その近くをこすられる度、甘美な刺激とともに真ん中への期待と欲求が高められる。欲しい、欲しい、もっと近くを、中のものを触ってほしい。女の欲求。口に出してはいけない、飲まれてはいけない女の欲求。それを言ってしまったら、欲しがってしまったら私は私を女と認めてしまう。それだけは…それだけは…。ふと彼と目が合う。顔は彼だが、今の目付きとニヤケ方はアイツのものだった。
「どうしたの『____』、何か言いたそうだけど。」
「べ、別に………」
言わない。言えない。言えるものか。言ってしまったら私は終わってしまう。疼く本能を必死に抑える。
「そ。ならいいんだけど~」
「………」
彼はまたなぞり始める。周りを。中を避けて。中を触らずに。もう片方の手が乳首に伸びる。でもその手も乳頭には触らない。周りを回る。巡回する。あの螺子の手つき。乳輪の周りを行ったり来たり。行ったり来たり。いじってくれない。触ってくれない。コリコリしてくれない。かすかに残った攻めの余韻が疼き出す。何してるの…触って…もう一度触って…いじって、こねて、ペロペロして、もう一度攻めて欲しい。我慢する私を本能が揺さぶる。
(触ってほしい。)
「っ…!」
(触ってほしい。いじってほしい。撫でてほしい。もっと、もっと、もっと…)
本能が私の耳元で囁く。私が塞き止めている欲望、女の淫らな欲望を私の中で代弁する。欲求。心の底でそうしてほしいと思う感情。聞こえないふりをする度、掻き消そうとする度、声が近づく。大きくなる。
(そんな周りじゃないの。もっと中。真ん中。焦らしてないで、早く触ってほしい。いじくってほしいの…)
「や…やぁ………」
(もう我慢できない…これ以上待てないの…楽に…もっと気持ちよくなりたいの…ねぇ…あなたもわかるでしょ…?だから…)

「お願い…触って…」

「もっと中の…気持ちいいとこを触って…」

私の口が動き、声になって飛び出す。限界を迎えた理性を破り、女としての本能が彼におねだりする。

「もっと…気持ちよくして…」
焦らしによって高まった色欲が意識を飲み込む。もう我慢できない。ねぇお願い…早く………
「早く…早くイかせて…!」

「…ふふっ、うん…いいよ…」
彼の顔が一瞬歪んだ気がした。でも、もうそんなことはどうでもいい。私に軽く口づけすると、足元の方へと移動してゆく。
「よく言えました。じゃあ『____』にご褒美。」
ずっと撫でられずに放置され、今か今かと焦らされた私のモノの果て、クリトリス。人差し指と中指で横に広げられ、皮の下から神経を凝縮した性感帯が露出する。すっかり膨れ上がったそこを、ゆっくりと舌が愛撫する。
「っ! あぁぁぁぁぁぁっ!!」
今まで感じたどんなものよりも強烈な快感。男の体では味わうことのできない、快楽以外の思考が消し飛ぶ快感。射精の何十倍、何百倍の気持ちよさが私の中を駆け巡る。気持ちいい。気持ちいい!気持ちいい!!
「あっ!あっ!あっ!あぁぁぁぁぁぁ!!」
体が感じて、弓なりになる。触れられただけで、撫でられただけで意識を手放しそうになる。快感の虜になってしまう。ずるいずるい、こんなに気持ちいいなんて、女の子ってずるい!悶える私のクリトリスを舌が根本からゆっっくりとなめ上げる。指とは違う、ザラザラして、それでいて柔らかい感触が私を遥かな高みへと押し上げる。
「ふぁっ、あっ!あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

もたなかった。
ものの3回。乳首への猛攻でイきかけていた私の精神が、焦らしによって極限まで敏感になったクリトリスの愛撫に耐えられるはずがなかった。決壊したダムから愛液が吹き出し、淫らにシーツを汚してゆく。待ちかねた欲求が満たされ、体は火照り、痺れ、私の頭の中は快楽と歓喜で満たされていった。

<6>
私は幸福感の中を漂っていた。男の絶頂とは根本的に違う、女の絶頂。発散後、虚無感に襲われるそれとは違う絶頂。体がムズムズして、甘美な余韻とともに更なる絶頂を求めてしまう絶頂。クリトリスを愛撫されてイってしまった私は、今まさにその甘美な余韻と貪欲な色欲にどっぷりと浸かっていた。そんな私の上体を彼が優しく、ゆっくりと起き上がらせる。そしてその下にクッションを忍ばせると、私は上体だけ起き上がった状態になった。目を開くとそこにはあの大きな姿見。鏡越しに微笑みかける彼の横で、クッションにすべてを預け、もたれかかる少女。私。女としてイってしまった直後の私。リボンとニーハイソックスだけ身に着けたエッチな美少女。息を荒げ、髪は乱れ、頬が紅潮して、恍惚の表情を浮かべている。体からは力という力が抜け、肩でする息で胸と腹が艶めかしく上下している。その下では大きく開かれた秘部がシーツに愛液を垂らしながらキラキラと光っていた。ああ…これが私の…私のオマンコ…初めて見た…
「この鏡に映ってるかわいいエッチな子、これが今の君だよ、『____』。」
これが…私…このエッチな顔の…彼に気持ち良くしてほしいって、オマンコいじってほしいっておねだりしちゃう、エッチな女の子…。
「メイドさんなのにシーツをこんなに汚しちゃうなんて、『____』はエッチだなぁ。」
「~~~///」
悔しいけど言い返せない。焦らしに負けておねだりしてしまったのは他でもない私だった。
「でも、正直におねだりできたからもうひとつ、ご褒美をあげる♪」
「ふぇ…?」
彼が自分の人指し指を咥え、唾液を纏わせた状態でその指を私のオマンコへ静かに挿入する。
「ぁ…」
クチュッ、とはしたない音をたてて異物が私の中に入ってくる。途中から私の愛液を纏い、中をなぞりながらゆっくりと出る、入るを繰り返す。液体音と共に、一定の周期で訪れる異物感。なぜかそれが心地よい。その出入りに合わせて、自然と口から嬌声が漏れてしまう。それが繰り返される度、再びムンムンといやらしい色欲が私を支配してゆく。私がその快楽に飲み込まれている間に、彼は懐から小瓶を取り出す。中から出てきたのはドロッとした透明の液体。糸を引くほど粘性の強いそれを、私に入れていた人差し指、そして中指に絡ませていく。そしてさらに私の入口にもトロトロと垂らし、塗りたくる。ヌルヌルとした感触が広がったオマンコに、今度はその二本をまっすぐ挿入する。
「ふぁっ!あっ…あん…あっ…」
入ってきた異物が出入りしつつその中を撫で回す。二本になったことで生み出す異物感と快楽は何倍にも膨れあがる。今まで感じたことのない性的感触。透明な液体で滑りが良くなったオマンコをクチュクチュ、クチュクチュかき混ぜる。愛液と液体が混ざりあって、直接触れていない部分にも振動が伝わる。その感触が気持ちよくて、他のことが考えられない。意識の全てがオマンコに集中する。ただただそれを味わっていたい。ずっと抜き差ししててほしい。その快楽の虜になったところで、指がオマンコから抜かれた。
「あっ………」
思わず、物欲しげな声が私から漏れだす。
「大丈夫。代わりに別のを入れたげる。」
そう言って彼は全てを脱ぎ捨てた。私がかつて持っていた無骨で筋肉隆々の、男の体。そして、その股間で反りたつオチンチン。あれ…?私のオチンチン、こんなに…大きかったっけ…?ゴクリと生唾を飲み込む。思わず私はその肉棒を凝視してしまっていた。その目の前で小瓶の液体を陰茎に垂らし、纏わせる。その液体で表面がテカテカといやらしく照り輝きだした。
「じゃあ挿れるよ、『____』」
「やっ…そんなおっきぃの……あっ…あぁぁっ………」
私のオマンコに正対し、ゆっくりと中へ挿入した。私のモノが私の中へと入ってくる。愛液と粘る液体を纏って、摩擦なくズブズブと指よりももっと奥へと侵入してくる。入れられてる。私の中にオチンチンが入ってきてる。犯される。女になっちゃう。後戻りできなくなっちゃう!埋もれていた男としての意識が危機を察知し、脳内で警報を鳴らす。だがもはやそれは逆効果だ。クリトリスでの絶頂を経て女性の性的感触を知り、より女性に目覚めてしまった本能。抵抗できない、彼に蹂躙されている、女に変えられてしまう。そんな被支配的、マゾヒスティックな状況が私をより興奮させる。
(は、入ってくる!ダメ!それ以上入られたら、あっ、ら、らめっ、あぁっ、あああああぁぁぁっ!)
ぶちっ!
「いっ!…………………あっ……」
突然痛みが走り、私の中で何かが破けた。それは私がまだ純白だったことを示していた膜。処女膜。その単語が浮かんだ途端、私の中で何かが崩れ、消え去ってゆく。けたたましく鳴っていた脳内の警報が止み、性的快感も途切れた。音のない、無の世界が広がる。
(処女じゃなくなっちゃった…)
(オマンコの中、オチンチンで突かれちゃった…)
(女として、男と交わっちゃった…)
(女にされちゃった…)
(もう…元に戻れない…)
私の声が世界に響く。
私が感じたこと、私が思ったことがそのまま声になり、私の中で何度も何度も繰り返し反響する。
(処女じゃなくなっちゃった…)
(オマンコの中、オチンチンで突かれちゃった…)
(女として、男と交わっちゃった…)
(女にされちゃった…)
(もう…元に戻れない…)
砕けてゆく。沈みこんでゆく。粉々になりすぎて、もうそれが何だったのか私にもわからない。ただ、処女と一緒に大切な何かを失った。確か処女よりも大切だった何かを。私の中で喪失感と虚無感が静かに渦巻いてゆく。
私は…私は…

「『____』、『____』、」
声がする。あの人の声。大好きなあの人の声。
「『____』、大丈夫?ねぇ、『____』、」
その声に意識がゆっくりと引き上げられてゆく。大好きな彼の顔が目の前にあった。
「ごめんよ、…痛かった?」
「………………ううん。」
私は今できる最高の笑みを返した。
「大丈夫だよ。」
彼は少しの間きょとんとした後、またイタズラっぽく微笑んだ。
「フフッ、『____』の初めて、もらっちゃった♪」
「……………うん。」
頬を染めて頷く。現実が再び動き出す。胸が、顔が熱い。私の中に彼が入ってきている。そのことにもうためらいはなかった。むしろ奥まで、もっと来てほしい。してほしい。出してほしい。果ててほしい。一緒に気持ちよくなってほしい。一緒に気持ちよくなりたい。今まで何かにせき止められていた想いが溢れ、歯止めが効かない。私はあきらめ、手を放す。足を放す。身を任せる。
「もっと…もっと奥まで来て…!」
うわ言のようにおねだりする。そこに理性はない。考えない。脊髄で会話する。幼子のように、私の中の世界でそうだったように、思ったことと嬌声がそのまま口に出る。彼もそれに応えてくれる。私に気を遣いながらやさしく、奥までズブズブと入ってくる。かつて経験したことのない感触に息が詰まりそうになる。やさしく、甘い、甘美な異物感。たったの一度で私を虜にする感触。彼が歩みを進めるたび、その強さは増していき、そしてついに、私の中に彼のモノが全て収まった。
「動かすよ、『____』。」
「うん…お願い…」
彼のモノが動きだす。ヌメヌメといやらしい感触を纏いつつ膣の中を刺激する。
「あっ、あぁっ、あぁぁ、あっ…」
膣の上部がこすれる度、快感が爆発する。もっと…もっともっと…もっと…!彼の出し入れに合わせ、私の腰が動く。貪欲に、ただ更なる快楽を味わおうと自ら彼の肉棒に膣をこすりつける。その動きにもうためらいはない。欲しい!欲しい欲しい!!ハァ、ハァと荒くなる吐息とエッチな喘ぎ声が部屋に響く。気持ちの高鳴りとともに私の動きも彼の動きもだんだん激しくなっていく。
「あんっ、あっ、あぁんっ、あぁ…あぁ…あぁぁっっ、」
もう頭の中にあるのは気持ちよさと、もっと欲しいという欲望だけ。ただ狂ったように、タガが外れたように腰を動かす。気持ちいい、気持ちいい気持ちいい気持ちいい、もっと、もっともっともっと、もっとちょうだい!
「っ…そろそろだ、イクよ『____』。」
「来て…中に、中に来て…あんっ、あっ、あっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
絶頂を迎え、私の愛液が膣内にあふれる。その放出と共に彼からも熱いものが放たれた。二人同時のフィニッシュ。私の中で二人の熱が混ざり、からまり、溢れ出す。部屋に二人の息遣いがこだました。彼は私に挿れたまま、私の横に寝転がる。絶頂から冷めきらない私を抱き寄せ、唇を奪い、体を撫でまわす。あぁ…なんて幸せなんだろう。今までこんなに気持ちよくて、ふわふわで、充実した気持ちになったことなんてなかった。私は性の絶頂とともに、幸せの絶頂へと昇天していた。
「いじわるしたかったけど、『____』があんまりかわいいから忘れちゃった。…ハハッ、こんなの初めてかも。」
彼がハニかみながら笑う。その顔は皮肉や憎たらしさのない、10代前半のウブで純粋な笑みだった。私は微笑み返し、彼を抱き寄せる。
「あなたのはじめて、もらっちゃった。」
彼の鼓動を感じる。私と同じく、早く、高鳴る鼓動。
「…ごめんね。村の女の子とは交わった後、またその子の頭に鍵をかけることにしてるんだ。彼女たちが普段、元の姿を、理想の彼の姿を思い出さないように。だから『____』も朝には今のボクの姿と声を忘れてしまう。これはボクが決めた村のルール。ここだけは曲げられない。」
「…うん。」
「そして、愛のお相手は1夜1回きり。でもね、」
彼がやさしく微笑む。
「『____』は特別。いじわるなしでもっと付き合ってあげる。ボクのはじめてを奪った罰として、今日のこの感触を忘れないように。とことんね。」
「………いじわる。」
二人は再び、熱い口づけを交わす。それからその日、私は彼と、互いに果てるまで何度も、何度も交わった。

<7>
私は隣街の酒場にいた。誰かが向こうのテーブルで話している。様子を見に行った者が誰も帰ってこない村がある、と。それはこの村の噂。私がこの村に来るきっかけになった噂。この状況…そうだ。これは私がこの村に来る前。私がまだ男だったときの出来事。私の体は元の雄々しいものに戻っていた。戻った…私の体…!抜け落ちていたものが頭の中に戻ってきた。しかし、体のコントロールが利かない。私の意思とは別に、体が勝手に動き出す。まるで映画を見ているように、その世界に干渉することができない。モヤモヤする意識を尻目に、夢の中の私はひとりでに酒の勘定を払い、店の外へと出ていってしまった。

目が覚めた。
ベッドの上。昨日と同じ、ふかふかなベッドの上。店を出るのと同時に、私の意識は今の体へと引き戻された。なんだか妙に体がだるい。だが、戻ってきた。男だったときの記憶。女としての、『____』としての色欲に飲まれて消滅したかに思われた元々の、男としての意識。酒場の夢によって記憶を掘り起こされ、再びそれが主導権を握っていた。だが、もはや今となってはその意識が表面に出ること自体が巧妙に作られた罠だった。意識は元に戻っても体は元に戻らない。『____』の、かわいらしい女の子の体のまま。湧き上がる異性の体への違和感。その違和感と共に伝わる、女性用に作られた肌着の滑らかな感触。いつのまにか着せられていた、フリルたっぷりでリボンがいたるところに施されたピンクのネグリジェ。それらを知らしめるように置かれた目の前の姿見。そこに容赦なく映し出される自分の姿。お尻をぺたんとつけ、女の子座りで胸に手を当てた美少女は羞恥の嵐に飲み込まれた。な、なんでよりによってこんなかわいらしい、女の子らしい恰好を………耳まで紅潮させ、目を伏せる。おさげにする前の柔らかな茶髪が首筋と頬をくすぐり、心に追い打ちをかける。
「うぅ~~~///」
理想の女性のうなり声。麗しいそれも出所が自分だと考えるだけで恥ずかしくなってくる。その羞恥に少年の言葉が蘇る。自分がこの体に、身に着けていたメイド服に翻弄され、さらにスカートまでめくられたときの言葉。
(ボクの楽しみその3~♪女になった子が恥ずかしがるのを観察すること~♪)
…きっとあの酒場の夢も少年の仕業だ。この村に来る以前の記憶を引き出すことで意識を男に巻き戻し、再び異性の体や恰好への羞恥を感じさせる。彼の求める好物は、女に成り果てた女ではない。今の私のように、まだ男としての意識が残された女の子。性別の狭間でその不一致に、慣れない異性としての辱しめに顔を赤らめる女の子。その羞恥に悶え苦しむ様を何より望んでいる。こうして男の意識の戻った私は恰好の的。きっと今も私が悶える様をどこかから覗いているに違いない。うぅ…なんて鬼畜で意地の悪い子なんだ…!自分で自分を抱こうとした。そのとき、その手が乳首の先端、乳頭をかすめる。敏感になった触感が性感帯に触れたことを性的感触とともに伝える。その信号で昨晩、このベッドで起きた出来事がフラッシュバックする。私の元の姿、私の理想の男性像に化けた少年と恋人同士のキスをし、お姫様だっこされ、乳首をいじられ、じりじりと焦らされて、その挙句に自分から求めて、クリトリスでイかされた後に挿入され、処女を奪われ、それをきっかけに意識が完全に飲まれ、自分から彼を抱き寄せた挙句に何度も何度も交わった。
「~~~~~~~っ!!」
ひとつひとつの出来事が羞恥をもたらす爆薬となって炸裂する。穴があったら入りたい。なくても掘って入りたい。受け入れたくない過去。なかったことにしたい過去。忘れたままの方が幸せだった過去。布団をかぶって足をバタつかせ、そしてベッドの上をゴロゴロ転がる。布団が巻きつき、太巻きのような状態になって左右に往復する。何やってるの!何をやってるのよ私は!バカバカ!私のバカ!!あぁぁぁぁっ!!!顔を赤らめ、悶絶するその姿は年頃の女の子のそれでしかない。
「あだっ!!」
興奮してベッドから転げ落ちた。うぅ…ホント、何やってるんだろう私…。我に返りつつ布団をベッドに敷き直す。その様子がチラチラと姿見にも映ったが、必死に見ないふりをした。枕やクッションを元の位置に置きなおし、一通り終わらせたところでベッドに腰掛けた。一呼吸を置いてから姿見の方を眺める。表面に映ったネグリジェの美少女、『____』が私を見つめ返す。頬を赤らめた、助けを求める子犬のような瞳。やっぱり、どうみても女の子だ。マゾ気を漂わせるその表情に、左手が無意識に自分の乳首へと伸びる。
「ひゃんっ!」
ネグリジェの上から乳首を撫でる。女性の性的感触。その感触が続きを求める。今まで息をひそめていた『____』の意識が目を覚ます。
「んっ…んんっ……んっ……」
こんなことしてる場合じゃない…絶対アイツが見てるのに…。頭で警告するも、乳頭をいじる手が止められない。ムラムラと色欲が湧きだし、男としての意識がまた私に浸食されてゆく。もっと…あのときみたいに…。衝動が私を飲み込む。手が背中へと伸び、首筋のボタンを外す。ファスナーを下し、袖口から両手を抜き取って下に押しやると、何もつけてなかった胸がふるふると顔を出した。ずっしりと重みを感じる、大きな私のおっぱい。その胸を彼のように横から包むように揉む。
「んっ………」
自ら乳首をコリコリといじる。
「んっ…っ………ぅんん………」
堪えているはずなのに漏れ出す嬌声。自分でいじっているはずなのに、彼にいじられているように感じる。彼の腕の中で、後ろからコリコリ、コリコリいじられている妄想にかられる。頭に鍵をかけられ、その顔も声も思い出せない理想の男性。いないはずの彼に操られるように、右手が股間へと伸びる。ショーツを下ろし、人差し指が私のオマンコへと吸い込まれてゆく。中はもう既にぐっしょり濡れていた。
「ふぁっ、あっ、あぁっ、あっ、あぁっ、」
指を膣の中の上部を触るようにこすりながら出し入れする。彼の指が入っていると錯覚する。その手はもう止まらない。止められない。息が乱れ、口はだらしなく開き、エッチな声があふれ出る。乳首をいじる手も、中指まで入れだした手も、どんどん、どんどん激しく動く。犯される。犯されている。妄想が興奮を加速させる。快感が頭を支配する。気持ちいい。気持ちいい気持ちいい、気持ちいい!!
「あぁ、あっ、あっ、あっ、あっ、あぁっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ビクンビクンと体を震わせながら、オマンコから愛液が噴き出た。ドロッとした艶めかしい液体がまたシーツにいやらしい染みを作ってゆく。私は糸の切れた人形のようにベッドに横になり、ほっこりとした余韻に浸りつつ呼吸を整えた。女になって、初めての自慰。男のそれよりも何倍も気持ちよかった。幸福感、浮遊感とともに、背徳感が私を包む。どうしよう。気持ちよすぎて、このままだと癖になっちゃいそう…
「あ~あ~、また汚しちゃって。ホント、エッチだなぁ『____』は。」
我に返る。その声の主は部屋の入口でニタニタと笑っていた。あの人、元の私のものではない忌むべき声と顔。少年だった。昨日あんなことがあった私でも、その声と姿にはいまいましさが湧いてきた。
「アンタ…いつから…」
「ヒャハ♪もちろん、起きたときからずっと♪やっぱり『____』はかわいいなぁ~、全然気づかないし。でもまさか一人でオナニー始めちゃうなんてねぇ。いやぁ、よっぽど気持ちよかったんだねぇ~♪」
くぅ~~~ホンットにいまいましい!!
「そうだなぁ~、10日間。」
「えっ?」
「10日間この村でいい子に暮らせたらまた彼に変身してあげる。ただし、この村から勝手に出たり旅人にバラしたら罰ゲーム、ア~ンド延長ね。」
彼と…10日間我慢すればまたあの人に会える…あれ…な、何うれしそうにしてるんだろ、私…。
「それと~、『____』の理想の服はメイド服だったし、今日からこの家でメイドさんをやってもらおうかな。」
「え゛っ!?この家で!?」
「口答えは1日延長だよ。」
「うぅ~~~………」
「ヒャハ♪決~まりっ♪それじゃあまずは~、そのエッチなシーツを洗ってきてもらおうかな。ヒャハハハ♪」
ホンットに最低。でも…

あと10日間。10日間凌げばあの人に抱いてもらえる。その中身も、姿も正体もわかっているのに、そう思うだけで胸がときめいた。黙って村から逃げ出そうとも思ったけど、あの少年のことだ。どんな罰ゲームが待っているかを考えるだけでも恐ろしい。結局私に残された道はこの村で理想の美少女『____』として生きることだけだった。私も他の旅人たちと同様、この村の情報を持ち帰ることなく、美少女だけの理想郷に閉じ込められてしまったのだった。

翌日、私はこの村に来たときに声をかけてくれた村の先輩たちに謝って回った。みんなあのときと変わらず美しかったけれど、今はなんとなく自分が一番に感じられた。それはきっと私が、私の中に眠る彼にとっての理想の美少女だからなのだろう。彼女たち曰く、ここに来た旅人に対し、この村から出るよう注意するまでだったら罰ゲームの対象にならないらしい。きっと少年もその程度の注意じゃ誰も帰らないことを知っているんだろう。じゃああの三つ編みの子、あのとき私にこうなることを言いかけたあの子は一体どうなってしまったのだろう。ふと心配になった私は彼女の暮らす家を聞き、その家に向かった。しかし、その途中。
「おわっ!すっげぇ!この村美人しかいねぇぞぉ♪」
村外れから聞こえる、素っ頓狂な男の声。あぁ、また新しい犠牲者が増えてしまう。早く言わないと。アイツが来る前に、アイツにさらわれる前に、こんなことになってしまう前に。彼がこの子と、交わらないように。私はメイド服のスカートを翻しながら駆け寄り、上目遣いで警告した。

「お願いします!今すぐこの村から出て行ってください!」

以上です。
お読みいただき、ありがとうございます。
『____』の中にあなた様の想う名前は入ったでしょうか。
どんな些細なことでも構いません。
ご感想や指摘点、変更したほうがよい表現や構成、展開、
こちらのシチュエーションをイラスト化希望した方がよい等ございましたら
黒糖鈴カステラまでご連絡をよろしくお願いいたします。

小説

Posted by amulai002