【投稿小説】オレ→私 ~坊ちゃんは魔法少女~

2024年10月17日小説

作 麗音
イメージイラスト・挿絵 きりりん https://skima.jp/profile?id=54613

とある高校の生徒会室。

「んんぅ…」

机の前で、パソコンや様々な書類に囲まれ、眠そうな素振りでうとうとする男子高校生がいた。

彼の名は夕凪 麗音(ゆうなぎ れいん)。

高名な実業家を父に持つ御曹司であり、この学校の新生徒会長だ。

会社の跡取り息子として何不自由なく育ち、両親からも大切にされてきた。

そんな中、麗音が一貫して愛してきたのが「ヒーロー」であった。

幼いころは特撮ドラマやアニメなどから、強さと優しさを兼ね備えたヒーローたちの世界にのめりこんだ。

成長した麗音は文学少年となり、小説を好むようになるが、ここでも特に彼の心をときめかせたのは推理小説・スパイ小説であり、探偵や怪盗、スパイたちのヒロイックな活躍であった。

特に、まるで手品のショーのような華麗なトリックで真の悪を欺き、弱きものたちを人知れず助けるとある作品の怪盗が「最推し」であった。

このようなヒーローたちへの憧憬に加え、御曹司として何もかもを両親や使用人たちに助けられてきたという自覚を持つようになった麗音は、次第に「誰かの役に立ちたい」「誰かを助けたい、守りたい」という気持ちを強めていった。

そのような気持ちから、習い事として剣道をはじめたり、高校では生徒会に入り会長選挙にも立候補したりするなど、傍から見れば「優等生」ルートを歩んできたが、中々自分が思い描く姿には近づけなかった。

というのも、麗音はいつも肝心な時に空回りしてしまう性があったからだ。

「小学生の時、修学旅行の前日に興奮で眠れず風邪をひいてしまった」、このエピソードがすべてを物語っているだろう。

高校もギリギリの点数で合格こそしたものの、実は入試本番、一番得意な社会科の試験で段ズレを起こし、目標だった特待生合格を逃している。

この日もそうだった。

生徒会長としての初めての会議に備えて、前日念入りに資料を作成したが、細かい所ばかり気にしてしまい、気づいた時には徹夜してしまっていた。

「坊ちゃま、大丈夫ですか…?

大事な会議の前日ですから、あまり無理はなさらないよう申しあげましたのに…」

隣に座る生徒会書記、晴(はる)が心配そうに声をかける。

彼は夕凪家の使用人の息子であり、麗音の学校でのお目付け役を任されている。晴が生徒会に入ったのもそのためだ。

「うん、ありがとう晴、なんとか…

いやーもう緊張とか以上に眠気がすごいから…逆にいいかもね…あはは…」

麗音は見栄を張るが、晴の目から見ても明らかに眠そうだ。

「そう言われましても…眠そう…ですよね…」

「んんっ…」

緊張や重要な場で居眠りをしてしまうことへの焦燥感よりも、眠気が勝っていた。

麗音の意識はすっかり夢うつつとなっていた。

_________

「ん…」

眠気が限界に達してから、どれだけの時間が経っただろうか。

朦朧とする意識の中遠くから聞こえる音にはっと気が付き、上体を起こす。

「あぁ、やっぱ寝落ちしちゃったか、オレ…」

眠気を振り払い、あたりを見渡して、異変に気付く。

「あれ…? 誰もいない…晴…?」

生徒会室に自分以外の生徒がいない。

それだけではない。廊下の方から聞こえるのはいつもの放課後の賑やかな声ではなく、明らかに悲鳴やパニックの声だった。

「何が起こって…えぇっ!?」

流石に様子がおかしいと思い、生徒会室の戸を開けて廊下の方を覗いた麗音は目を疑った。

「なっ…なんだよ…これ…」

生徒や教師の一部が、おぞましい色の怪物に変化し、暴れまわっている。

ホラー映画で見るゾンビそのものだ。

ゾンビ化していない生徒や教師たちが学校じゅうを逃げまどっているなか、遠く、学校の入口付近に黒い衣装を着た男が、まるでゾンビたちを率いているかのように立っているのが見える。

「見るがいい、魔法を持たぬ人間どもよ!これがネクロマンシーの力よ!」

「何を言ってるんだ…魔法?

…もしかして夢でも見てるのか…?」

いわゆる正常性バイアス、という現象だろうか。

確かに最近ファンタジー小説やゾンビホラー小説を呼んでいたため、きっとそれらの影響で夢を見ているのだろう、麗音の中に即座にそんな考えが浮かんだ。

その時だった。

「や、やめろっ…来るな…!」

廊下で、徘徊するゾンビのうち一体に襲われそうになる晴が見えた。

「晴!?」

思わず声を漏らす。

「ぼ…坊ちゃま…助…け…」

麗音に気付いた晴は藁をもつかむ気持ちで、麗音に助けを求める。

「晴ッ!」

麗音が叫ぶも、時すでに遅し。

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

晴がゾンビに飛びつかれ、悲鳴を上げながら変質してゆく。

みるみるうちに、同じような怪物の姿になってしまった。

「うそ…だろ…」

夢にしてはあまりにもリアルすぎる出来事に、最悪の事態が頭をよぎる。

「本当に…ゾンビなのかよ…!?」

その瞬間、

「ヴルルゥゥゥゥ…」

「ひいっ…!」

晴を襲ったゾンビ、そして晴が変化したゾンビが麗音に気付き、ドアから生徒会室に侵入してきた。

麗音は次第に足がすくみ、恐怖にガクガクと震えだした。

「晴!オレだ!麗音だ!わからないのか!」

「グルルルゥ…」

変わり果ててしまった晴に、麗音の言葉は届かない。

「予言の通り『輝きの魔女』が現れる前に、この世界ごと滅ぼしてくれるわ!」

入り口の男がそう言い放ったが、最早麗音の耳には恐怖で何も入ってこなかった。

「…ッ!!」

部室の奥に追い詰められた麗音は、煩雑に積まれた資料や物品を入れた段ボールに躓き、体制を崩す。

いよいよ逃げ場がない。

「結局オレは…誰も守れなかったのかよ…!」

「グルルルルァ!」

ゾンビたちが麗音に飛びつこうとしたその瞬間だった。

_________

「ッ!!」

「!!」

麗音たちの周りに眩い光が発せられる。

その光に照らされ、眩しそうにしているゾンビたちの動きが止まる。

麗音は立ち上がり、光の源に目を向ける。

「これって…」

光を発しているのは、麗音が追い詰められた後ろに立てかけてあった姿見鏡だった。

「なんだ…あの光は…まさか!?」

生徒会室から漏れる光を見て、ゾンビたちを操っていた男も驚きを隠せない様子だ。

「何が起こって…」

麗音は振り返り、改めで鏡の中を見る。すると、

「!?」

光を放つ鏡の中に映っていたのはいつもの麗音ではなく、ピンク髪のポニーテールにハート形のアホ毛を生やした少女の姿であった。

「なんだよ…これ…!?

これが…オレ…!?」

戸惑いを隠しきれない麗音だったが、身体が本能的に動いていた。

鏡像の少女は可愛らしい姿ながらも、強い意志と力を兼ね備えているように麗音の目には映った。

麗音はゆっくりと鏡の方に手を伸ばし、鏡の中の少女と手を合わせる。

青年と少女の手と手が触れたその瞬間、

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

さらに眩い光が鏡より発せられ、大きくなってゆき、麗音を包み込むように飲み込んでゆく。

_________

「ぃん…夕凪 麗音…」

どこからか自分の名前を呼ぶ声に、我に返る。

「誰かオレを…って、えぇっ!?」

自身が光で覆われた空間に浮いていることに気づき、思わず驚きの声を上げる。

「夕凪 麗音…貴方が混乱しているのも無理はありません。」

まるでスピーカーから放たれているかのような音で、女性の声が麗音に語り掛けてきた。

空間内を見渡す限り、声の主は見当たらない。

「貴方は?」

「私は…そうですね、貴方たちの世界の言葉でいう、『魔法界』の女王…とでも言いましょうか。」

「ま、魔法界!?

物語上の存在ではなく…本当にあるってことですか!?」

「ええ、そう思うのも当然でしょう。魔法界と人間界との接触が断たれて、もう長い月日が経ちますから。

しかしこの魔法界も、今は滅びたも同然…

貴方も見たでしょう?大量のアンデッド…ゾンビたちとそれを操る男を…」

「はい、あいつらは一体…」

「黒魔術やネクロマンシーなどの禁術を操る黒魔術師たちの勢力です。

彼らは魔法界をわが物にしようと侵略行為をはじめ、瞬く間にこの魔法界を制圧してしまいました。殆どなすすべもなく…」

「…」

麗音は一瞬言葉を失ってしまう。

「お、俺も同じです…

幼いころから…誰かの役に立ちたい、誰かを助けたいって、ずっと思ってきて…それで剣道をはじめたり生徒会にも入ったのに…

でも結局、自分は結局助けられてばっかりで…こんなことが起こって、目の前の晴も助けられずに…

もうオレ、どうしたらいいか…」

「麗音、晴を…いや、みんなを助けたいですか?」

「!? 助けられるんですか?」

「こうして私が貴方に接触できたということは、あなたが予言にある『輝きの魔女』として開花する素質を持っているということです。」

「輝きの…あっ、さっきのあいつが言っていた…!」

「はい、魔法界に危機が訪れるとき、人間界から『輝きの魔女』が出現して2つの世界を救う、という旨の予言が、その証である秘宝と共に伝わっています。」

「へぇ…

って待って、オレが…『魔女』?」

「はい…

魔法界の危機が人間界に押し寄せたとき、『誰かを助けたいと思う気持ち』を最も強く持つ者が輝きの魔女として目覚める、とその予言には伝えられています。

麗音…貴方こそが、輝きの魔女に相応しいのです。」

困惑する麗音に、女王が語りかける。

少しの沈黙の後、

「では、これを…」

女王がそう呟くと、麗音の目の前に小さな光の球が表れ、麗音の方に勢いよく飛んできた。

「ッ…!!」

一瞬激しい光が広がったのち光が晴れると、

「んっ…なんだこれ…?首が…」

麗音の胸元には、菱形にカットされたピンク色の宝石と、その下部に雫型をした青緑色の宝石があしらわれたチョーカーがついていた。この世の宝石とは思えない、神秘的な輝きを放っている。

「やはりこの危機に際して、秘宝は貴方を選んだようですね。

その力があれば、皆を助けることができます。

私の魔力ももう限界…もう貴方と話すことができる時間も僅かです…

さあ、輝きの魔女として目覚めるのです…」

女王の言葉に呼応するように、チョーカーの宝石が点滅するように光を放ち出す。

それと同時に、麗音の胸の奥から熱いものがこみ上げてきた。

「なんだ…この力は…!?

心の奥底から…込み上げてくる…!

お、オレは…オレは…!」

胸の中にある底知れない力が、今にも解き放たれそうな、そんな感覚だ。

「さあ、呪文を…」

麗音はこみ上げてくる熱いものに突き動かされるように、習ってもいない呪文を唱える。

「ノーブル・ミラージュ・マジカリュージョン!」

_________

刹那、チョーカーから眩いばかりの光が放たれる。

優しく目を瞑り身を委ねると、麗音が纏っていた帽子や服が光の粒子となって消えてゆく。

同時に、金髪だった髪の毛が、ピンクがかった色に変化を始める。

光の空間の中で裸となってしまったが、恥ずかしいという感情はあまり湧いてこなかった。

しかし間もなく、胸に白いハート形の光が浮かび上がると、麗音は身体の異変を感じ始める。

(んっ…/// なんだこれ…っ///

身体が…縮むっ…!?///)

筋肉質であった身体がみるみるうちに縮んでゆき、子供の頃のような体付きに変化してゆく。するとさらに、

「っ…!///」

光が浮かび上がった胸がピクピクと疼きだし、ゆっくりと膨らみ始めた。

「あっ…♡ /// んんんっ…♡ ///」

胸が膨らむに従って、声も高く、可愛らしいものへ変化してゆく。

(もしかしてオレ、ほんとに女の子の身体に…!?)

麗音が気づいたころには、すでに身体の変化が進んでいた。

「あぁぁんっ!?♡///」

胸の膨らみが進む中、同時に麗音の股の突起が縮んでゆく。

(ダメっ…/// オレが…/// 私が…♡ /// 変わる…っ♡ ///)

身体の急激な変化に引きずられるように、麗音の心にも変化が進んでいった。

そしてついには、ピンク色となった髪がサラサラと伸びてゆき、出現したリボンにより長いサイドテールへと髪型が整えられる。頭頂にはハート形のアホ毛が、可愛らしく伸びていた。

身体の変化が終わった麗音は、豊満なバストを持つ15歳ほどの少女へと変化を遂げていた。

可憐さと芯の強さを兼ね備える、麗音が鏡で見た少女そのものだ。

変化を終えて間もなく、一糸も纏っていない麗音の胸元に、再び魔導士の証である秘宝が出現した。

今度はチョーカーではなく、ピンク色の大きな襟の襟元に、2つの宝石が輝いていた。

衣装の襟が出現するや否や、今度は秘宝の宝石から無数の光のリボンが放たれ、全身を包み込んでゆく。

リボンは麗音の身体に纏いつき、その身体にフィットするようにギュっと締め付けられる。

「んんんあっ♡ ///」

初めて女性の胸や身体を刺激される感覚に、麗音は思わず声を漏らしてしまう。

麗音が身体に纏った光のリボンは、部位ごとに1つずつ、華やかな衣装へと姿を変えてゆく。

衣装の形成が終わり、虚空から出現したステッキを手に取ると、光の空間は少しずつ薄くなってゆき、予言の存在「輝きの魔女」が、その姿を表し始めた。

ほどなくして光がすべて消えると、少女はゆっくりと、生徒会室から歩みを進めてゆく。

そこに、「ヒーローに憧れるだけで何もできない麗音」はいなかった。

彼は、いや彼女は、力を経て、晴を、学校を、そして世界を守るための新たな舞台に立つ。

「!!」

黒魔術師の男は、廊下から現れた少女を見るや否や、彼女が何であるか確信した。

「ま、まさか貴様が、予言に記された…!」

満を持してその真名を名乗り、「最推し」になぞらえて決め台詞を言い放つ。

「輝きの魔女、ノーブルレイン!!

タネも仕掛けも、ございません♪」

_________

「….ゃま…坊ちゃま!」

「ん…?」

晴に声をかけられてふと目が覚めると、麗音は生徒会室で元の机の前に座っていた。

「んあぁ…なんだ夢かぁ…

はぁ…そりゃそうよな…」

どうやら、居眠りをしていたことは確かなようだ。

「おや、何か悪い夢でもご覧になっていたのですか?」

「ちょっとね…あはは…」

麗音は笑ってごまかすと、生徒会室にかかった時計の方に目を向ける。

「さて、会議の時間か…」

「はい、皆様会議室で坊ちゃまをお待ちですよ。

さあ、こちらへ…」

「うん、ありがとう晴。

行こう…!」

「はい!」

改めて眠気を振り払うように立ち上がり、晴と共に会議室に向かう麗音。

その胸元、制服のシャツの襟の下からは、ピンクと青緑色の宝石をあしらったチョーカーがわずかに顔を覗かせていた。

小説

Posted by amulai002